秋の食卓にふさわしい、肌合いしっとりの土もの。高田谷将宏さん自らが選ぶ、今のBest盤。
高田谷将宏さんの個展がスタートしました。
今回の展示の作品はすべて薪窯で焼かれたもの。同じ土、釉薬を使った作品でも一点いってん表情が異なります。ツルリとガラス化したものもあればザラザラと無垢な土の雰囲気を残すもの、しっとりやわらかに焼きあがったものなど質感も大きく変わります。
淡く明るい発色の磁器と違い、土ものはもともとグレーや褐色など暗めのトーンが中心なので地味目の色合いが中心なのですが、白っぽく明るい灰釉の作品でも薪で焼かれる時に灰をかぶったり鉄粉がにじみ出たり、さらに落ち着いた雰囲気の展示となっています。少し前まで猛暑日が続いていたので、落ち着いたトーンの高田谷さんの展示、若干季節にそぐわないかなあと心配していたのですが、ここ数日急激に涼しくなり秋っぽい雰囲気が出てきたのでホッとしていました。
朝晩肌寒いと思えるような気温の日まで出てきて、急に温かい食べ物が恋しくなってきました。炊き立ての栗ご飯にポトフ、和え物といった秋の献立がこんなにも似合うのは、やはり温かみのある土ものとの相性がよいからです。高田谷さんの土ものは、ごてごて余計な装飾がなくシンプル。ぽってりした形のものも不思議と野暮ったさがなく上品です。
常滑から届けてくださった作品は200点余り。前回2年前の2人展で400点以上を出品してくださっていて、今回は一人でやっているのになぜか半分の点数になっているのが可笑しいですが、見ごたえのある充実の展示になっていると思います。昨年一年間、いろいろな事情からほぼ窯焚きをすることができなかったという高田谷さん。その分再開後の制作にはまるで「空白を取り戻す」かのように精力的に取り組んでいて、決して制作量自体が減ったわけではないのです。むしろ飢餓感さえ感じさせるほどの勢いで「ひたすら手を動かし、限界まで焚き続けた」中から、自身で納得のいくものを厳選して持ってきている、そんな確固たる自信が高田谷さんご本人の言葉の端々から感じられました。いわば、作家自身で選んだ現時点のベスト盤のような展示です。
自ら薪窯を築き、展示ではようやく念願の薪窯焼成一本で作品を焼けるようになり、今、面白くて仕方がない、といった様子の高田谷さん。同じ土、同じ釉薬でも無限に表情のバリエーションが出る薪窯を焚いていると、新しい釉薬や技法を試そうという気持ちが起きない、と話していました。釉薬や土の種類を絞っても、想像もつかないような色の変化や質感の違いが出て十分に見せることができる。
確かに一点一点の存在感が大きく、どの作品もできることならスペースをとってスポットライトをあてて見てもらいたい、そんな気持ちにさせられる迫力ある作品ばかりです。Onlineでも掲載いたしますが、何回かに分けてカテゴリー別にご紹介したいと思います。
店頭で直接見てくださる方はよいのですが、Onlineでどこまでこのテンションをお伝えできるのか。若干(いやかなり)プレッシャーも感じてしまいますが、それでも、わたしたちなりに今回注目していただきたい点や、先入観にならない程度にアイテムや種類の説明などもさせていただきたいと思います。作品選びの一助となれば幸いです。
まずは飯碗、鉢など少し深さのある作品から。これまでろばの家で高田谷さんの作品をご紹介してきた中ではもっとも登場回数が多かったアイテムではないかと思います。高田谷さんの飯椀はパパろばがコレクターか?というほど集めており、その手取りの良さや盛った感じの品の良さに、パパろばだけでなくすでに一定層ファンがいるのではと思います。鉢もまた高田谷さんらしさが出やすいアイテムで、ただ置いてあると気が付かないようなさりげない佇まいでも実際に使ってみると「何を盛っても映える」「盛りやすくてついつい手が伸びてしまう」と支持されています。
『高田谷将宏 陶展』Onlineのページはコチラ。第一弾は、飯椀、碗、鉢など。見どころを別の記事にまとめましたのでぜひ参考にしてみてください。