ゆっくりと透明感を増してゆく漆。コーヒーカップで漆の良さを実感。
何年も使い込んだ小林慎二さんの白溜めのコーヒーカップ。左側がその使い込んだもの、右側が工房から届いたばかりの状態です。写真から色、質感の違いが伝わるでしょうか。始めはマットな光沢で、下塗りの跡が見えず深いこげ茶だったのですが、だんだんと明るく透明度が上がってきて下塗りの刷毛目の濃淡が透けて輝いています。特に何かお手入れをしたり磨いたわけではありません。洗った後乾いた布巾で拭いていただけです。使い込めば込むほど透明度が増し、透き通るような明るい色合いに変化してゆくということは、漆の楽しみの中でももっとも魅力的に感じられることなのではないでしょうか。
お茶にもコーヒーにも使っていますが香りは残らないし、とにかく軽くて丈夫。以前お店でカフェラテを出していいた時にこの漆のカップでお出すと、その想像以上の軽さにみな驚くようでした。漆は保温性が高く、唇に吸い付くようなや柔らかい口当たりと結露しにくい点からも、温冷問わず飲み物には最高なのです。小林さんが、漆離れが進む現代により身近なアイテムとして日常使いできるものをと、定番で作っているシンプルなデザインです。
漆は保温性が抜群で温かいものは冷めず、冷たいものは冷たいままで長時間保たれます。そのうえ、熱伝導率は低いので熱湯を注いでも手に熱は伝わりません。こんな理想的なうつわが、他にあるでしょうか?エベレスト登頂の際に漆のカップを携帯する、と聞いてなるほどと深く頷いてしまいました。金属では凍って怪我をしてしまいますし、漆の軽さ、丈夫さが買われたのでしょう。コーヒーカップという名前を便宜上つけていますが、何にでも使えるフリーカップなのでフルーツやヨーグルト、アイスクリームなどデザートカップとしても使いやすい形状、サイズです。
毎日愛用できるコーヒーカップなら、漆の質感の変化と口当たりの優しさを実感していただきやすいはず。その変化は、わたしたちの想像を裏切る形で見られます。陶器ならば、だんだんと黒ずんで落ち着いた鈍い色になるという経年変化が一般的ですが、はじめはマットでくすんでいたものが、使いこむことで透明度を増して明るい色になってゆく、という過程は新鮮な驚きであるはずです。
小林さんの漆器は、輪島の伝統的技法である布張りを下地に施してあるため飲み口の部分が補強されてさらに丈夫に作られています。気が遠くなるほどの手数をかけて下地を塗っては漆で強化し、また研いではさらに漆を重ね、という工程を繰返すことで、木という柔らかな素材が、割れないガラス、というほどの強度を持つに至る。しかも、ガラスよりも口当たりはやわらかで、わずかな弾力を残しているため吸い付くような肌触りなのです。
ずっと長く手元に置いて、時間をかけて愛でてゆきたい相手として、選んでみたくはなりませんか?手入れは本当に簡単。金だわしなどで擦りさえしなければ普通の陶器と変わりありません。気軽に漆に親しんでいただくのにぴったりで、贈り物としても人気があります。
色は全部で4色。上から赤、赤溜、白溜、黒です。それぞれに違った経年変化を楽しめるのもまた魅力ですね。どの色も美しく悩んでしまいます(笑)。
小林慎二さんの漆器はこちらのページから。