村上雄一さん と おやつの時間


目指すのは、ひとつのお茶にひとつの茶器。

そのあまりに美しい姿と緻密な作りに、実物を目の前すると思わず息をひそめてしまいます。こんなにも美しい茶器には、いったいどんな素晴らしいお茶を用意しなければならないのだろうと戸惑ってしまうほどです。大きな声を出すと壊れてしまいそうに思えるのは、おままごとのように小さい中国茶用の茶器、茶壺が混じっているからかもしれません。

「使うのがもったいなくて飾っておきたい」とまで言われてしまうほど(…いえいえ、使ってください!)愛らしい姿の茶器の数々。岐阜県土岐市で制作する村上雄一さんの手によるものです。この、細部までどこまでもきっちり仕上げてある様子、伝わりますでしょうか。白磁だけでなく耐熱の土瓶も多種作られていますが、ディティールの美しさはもちろん湯気の向きを考えた通気口、金具が回っても陶器にヒビが入りにくい工夫、取っ手の木の持ち易さなど、一点たりとも見落としがないという徹底した仕上げです。もう、ひたすら惚れ惚れしてしまう。


実は2015年から始まった『おやつの時間』へ出ていただくのは今年で4回目。欠かさず毎年参加してくださっている唯一の作家さんということになります。思えば、ろばの家にはじめて登場していただいたのが、おやつの時間でした。これはもう、村上さんなくしておやつの時間はない、というくらいのご縁と思ってよいのではないでしょうか。よおし、来年もお願いしちゃおっと。ちなみにパパろばが初めて村上さんの工房を訪ねたレポートがコレ。村上さんの写真が載っていますよ。

その村上さん、毎年絶妙に出品するアイテムの系統が変わってきていて、それがそのまま彼の興味の対象とリンクしているようで面白いんです。はじめてご紹介した時の記事でも触れた、自宅での食事風景を紹介している自身のブログ『おしゃべりな食卓』(必見です!)を見ても歴然です。個展で台湾に出かけている影響もあるのでしょう。ここ数年俄然台湾のお茶と食文化にハマってしまっているようで、ご自宅でもいろいろなお茶を楽しんでいます。台湾で出会ったお料理やお菓子の再現料理も何度か登場していました。奥様の手料理がこれまたハイクオリティー過ぎて、お料理雑誌のページのように眺めているだけでも楽しい。

まあその、村上さんの探究心といったら若干オタク級と呼んで差支えない徹底ぶりだと思うのですが、それがごく健全に感じられるのはきっと、あくまで食を楽しむことがベースにあるからでしょう。加飾だけに走って満足していないということです。今回届いた沢山の茶器の意匠を見ていて、そのどれもがそれぞれに美しく、すでに完成形とでもいうような雰囲気を漂わせているのに素直に驚き、本人に聞いてしまいました。こういった意匠は何を手本に着想するのか、と。

そこで出てきた答えが、冒頭の「ひとつのお茶に、ひとつの茶器を目標に作っています」というものだったのです。夜中にメールで聞いてしまったのですが、とても丁寧にお答えしてくれました。

「ひとつのお茶にひとつの茶器、を目標につくっています。そうしたら自然に形が決まっていきます。」

毎日ご自身でいろいろお茶を楽しみ味わいの個性の違いに感動しているうち、個々のお茶に似合うカタチ、イメージが自然と浮かんでくる…。なんて無理のない、豊かなカタチとの向き合い方なのでしょう。ポットのバリエーションを増やすためにディティールを少しずつ変えてみる、というやり方とは根本的に目指すところが違うのだと、深く納得しました。きっと、華やかな味わいのお茶には可憐な姿の茶器、力強く奥深い味わいのお茶には静謐な姿の茶器が、そしてそのお茶の力を最大限に引き出すための理にかなったカタチ、大きさが加味され、最終的にひとつの形が生み出される。その形の源流が味覚によって呼び起されたイメージであることは、出来上がった作品の説得力に大きく作用するはず。

考えてみると、村上さんのうつわは茶器でなくても全て、明確な用途が思い浮かぶ形、大きさをしているのでした。具体的に盛りたいお料理が浮かんでくる、その料理を作りたくなる…そんなうつわばかりです。それはまさに、村上さんご自身が毎日自分たちの食卓で実際にうつわを使い、使い勝手を試しながらサイズや形状、微妙な細部を整え、良いものは残し、使いにくいものは淘汰してゆくという選択を日常の中で繰り返してきたから。そうしてそれを、家族みんなで楽しんでいるから。きっと村上家ではとあるお皿が食卓に並んだだけで「あ、今日はアレでしょう~」などと子供たちに言い当てられてしまうような定番の組み合わせが多々あるのでしょうね。

村上さんが積み重ねてきた経験。美味しさへの興味、アンテナの高さ。今ある作品には、時間をかけてそれらが投影されてきている。ワタシたちはその作品を通して台湾の屋台の喧騒を聞き、霧深い茶畑の墨絵のような風景を眺め、お茶の葉がゆっくりと広がるのを待つ時間、遠くへ旅することができる。質の良い小説がわたしたちをまだ見ぬ世界へ連れて行ってくれるのと同じように、うつわもまた、そんな役割りを担うことがある。正直、村上さんとの会話のやりとりのあとその事実におののいて、しばし考え込んでしまいました。

うつわもまた、コミュニケーションツールである、という事実に。

今回は白磁の作品を中心に届けてくださいました。その真っ白な作品を見て、皆さんどんなお料理、お飲み物を思い浮かべるのでしょう。必ずしも、村上さんと同じである必要などありません。それは正解というのとは違うのです。何かを喚起させられる、そのワクワクするような感覚。今日、コレに何盛ろうか?今日はどのお茶にしようか…。そう、村上さんのブログではないですが、おしゃべりな食卓。会話を呼ぶうつわ。

それにしても、村上さんのブログを見ているとつくづく…。一度でいいからお家にお呼ばれしてみたいものだと、誰でも憧れちゃいますよ、ね。え?上の画像のお菓子も気になる??かの有名な、マルコ・デ・バタサンドですよお。その名前を聞いてピン!と来る方は相当のイタリアワイン好き。こちらもおやつの時間に登場です。

村上雄一さんのページはコチラです。

 

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