土と炎との戯れが生む偶然の表情。やきしめの良さ、もっともっと知って欲しい。

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やきしめの最大の魅力は、どれひとつとして同じ色や模様がないという唯一性。

作家さんと話していると、やきしめのうつわの表面に浮かぶムラや銀色に鈍く光る部分などを”炎が走った跡”と呼ぶのを聞くことがあります。同じ粘土で同じような形に挽いても、窯の中の火がどこからどのように駆け抜けたかによってひとつひとつのうつわに違った表情が加わります。炎の足跡だけではありません。窯のなかのどのあたりに置くか、そこが高温になるところか低温になる場所なのか、また送りこむ酸素の量によって酸化状態かあるいは還元状態に置くのかによっても色合いや質感が変わり、歪みの生じ具合も変わります。さらには薪の灰が被ったり粘土の成分が溶け出して自然釉となり、うつわに斑点やグラデーションを絵画のように自由に描き出す。それらの筆致はすべて、窯の炎によって偶然に生まれたもの。人間の思惑が炎の気まぐれにあっさり裏切られることになるのか、予想を上回る自然の遊戯に魅せられることになるのかというドラマチックな窯出しの緊張感は、やはり薪窯の醍醐味なのでしょうね。
DSC_6742けれども、釉薬を使わず土本来の色だけで勝負するということは、それだけ形の持つ力も問われるということです。また、予期しない結果が果たして美しいと感じられるものになるのか薄汚い印象を与えてしまうのか…。経験を積んだ作家さんが「薪だから良いというものではない」と断言するのを、いろいろな作品を数多く見てゆくにつれ深い共感を持って噛みしめてしまうのです。やきしめはその大雑把なくくりだけで見ると、どんなにひとつひとつ表情が違うと言っても所詮明るい黄土から赤茶、黒に近いこげ茶色までのアースカラー(まさに!)の範疇。遠目には似たような雰囲気のものに見えてしまいがちです。けれどその中に、特別に自分を惹きつけるもの、つい台所で毎回手に取ってしまうものがある。ろばの家の一角では今、やきしめの良さをもっとお伝えしたい、と幅広いアイテムを集めたやきしめコーナーを作っているのですが、こうして目の前に境道一さんや境知子さん、加地学さんによるやきしめのうつわを一同に並べていると思わずニンマリしてしまう。だって、ぜんっぜん違うんだもの。電話で話していても声や言葉遣い、抑揚から人がわかるのと同じくらい、同じやきしめでも雰囲気が違うのです。色や形を越えて浮かび上がってくるその人の個性のようなものがうつわにまで反映されているのを見るだに、ああ私たちは「やきしめが好き」なのではなく、道一さんの、知子さんの、加地さんのやきしめが好きなんだ、と思い知ってしまうのです。

やきしめ、やきしめと連呼していますが、もともと”焼き締め”や”締め焼き”と呼ばれる技法による分類のひとつで、備前焼きや信楽焼きに代表される、釉薬を使わずに高温で焼き上げた陶器を指します。同じ無釉でも植木鉢などの素焼き(テラコッタも素焼きのひとつ)との決定的な違いは焼成温度。一般に素焼きが800~900度程度で焼かれるのに対しやきしめは1100~1300度で焼かれています。多くは穴窯や登り窯などの薪窯で1週間~2週間程度かけてじっくり芯まで焼かれていて硬くて大変丈夫です。素焼きと違って水も通しません。油染みしやすいので何か敷いて使うようにいわれることもありますが、むしろ油モノや汁物も気にせずどんどん使いこんだ方が早く艶が出てしっとりした質感になってゆきます。はじめのうちはガサガサしていますが、束子でゴシゴシ洗ううちに徐々に肌質も滑らかになってきます。丈夫で気を使わず扱えることや、使い込んで色合いや手触りが変化し育ってゆくのを見守れることもやきしめの大きな楽しみです。

お料理を盛る前に一度たっぷりと水にくぐらせると、臭い移りを防げるだけでなく気化熱で食材を冷んやりと保ち、見た目にも涼しげです。写真のように氷水で食材を冷やすと驚くほどキーンと冷気を放ちます。古くからやきしめは水が腐らないといわれ水瓶や保存壺にも使われてきました。適度な吸湿性があり蓋物は塩壺としても、にんにく・生姜や梅干などを保存するにも最適。火元近くでも気にせず使えるのも便利で箸立てやツールスタンドにも向いています。お茶もまろやかに美味しく淹れられ、花器に使うと夏場でも水持ち良く切花が長持ちします。よく呼吸して蒸れないのでサクッと食感を残したいような揚げ物やグリル、パンやおにぎりなど湿度を嫌うものにも理想的なうつわなのです。なんだか良いことづくめでベタ惚れという感じですが、実際毎日使っていると優れた点ばかりが目について、やきしめ宣教師として全国を巡業しなければとアナタハツチトヒノチカラヲシンジマスカ?的な使命感に燃えてしまうほどなのです。相変わらず大袈裟かつ意味不明でスイマセン。
DSC_6711和食のイメージが強いかもしれませんが、ウチではイタリアンにも中華にも、何にでも違和感なく合わせています。土から生まれたまんまという印象のやきしめに、畑で採れたばかりの野菜を盛りつけるだなんて料理人としてこれ以上の幸せはない、と言ってくださったフレンチのシェフがいてハッとしました。大地の恵みを感謝していただく返礼のような気持ちでやきしめをに盛る。そんな感性は自分にはありませんでした。

やきしめのうつわがひとつ入るだけで食卓がピリリと引き締まります。この夏ぜひ、冷たいお料理を盛りつけて涼しげなテーブルを楽しんでみてください。

やきしめのうつわばかりを集めたページをつくりました。ぜひ一人ひとりの個性をお楽しみください。

*写真のやきしめのうつわは上から境道一さん(蓋物、箸立て、深皿)、境道一さん(楕円皿)加地学さん(鉢)。

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