神々にささげるためのわら細工を、稲を育てるところから。ただただ平和を祈って。


このわら細工のお飾りは『祝結び』。ろばの家の窓に吊るしているだけなのですが多くの方からどういったお飾りなのか、どこの地方のものなのかなど尋ねられます。特に豪華な感じがするわけではなくシンプルで控え目な飾りなのですが、なぜかとても堂々とした印象で、見るものを晴れやかで明るい気持ちにしてくれます。

宮崎県西臼杵郡の高千穂地方、日之影にあるわら細工専門の工房『わら細工たくぼ』さんによるもの。手に取ってみていただくとよくわかるのですが、とてもとても丁寧なつくりで頑丈にしっかりと結わえられ、芯までみっちり詰まった藁の密度に驚きます。横からピョンピョン飛び出た短いわら屑などもなく、美しく整えられています。そして、青い藁の清々しい香り!こんな爽快な気持ちになるお飾りに、それまで出会ったことはありませんでした。毎年、年の暮れにお正月飾りを探していてあまり気に入ったものに出会えず、それでも無理矢理「まあこれならそれほど派手じゃないか」というものを妥協して間に合わせで買い、さほど感謝の念もなく飾っていたわたしとしては、こんなに美しく、見ているだけで清々しくなってくるようなお飾りに出会えたことはある種の衝撃でもありました。

たくぼさんは同じ高千穂で作陶する壷田和宏さんにご紹介いただき昨年からわら細工を置かせていただきました。『やっぱり、ごはん党』の時に初めてご紹介した鍋敷きのような生活道具はもともとは本業ではなく、主に神事に使われるわら飾りを専門に作っていた工房です。一年中飾っておくことのできる平和飾りや祝結びなどのお飾りはここ数年全国から注文が殺到し、何か月も前から予約しておかないと12月にお飾りを納品して頂くことができないのです。昨年ワタシがお願いしたのはもう10月近くだったので、ほんとうにわずかな数しかお願いすることができませんでした。11月以降は地元のしめ縄飾り作りに追われてしまうので、その前に集中して全国の注文分を制作してくださいます。え?それならもっと早くから作り始めればよいのではないか?いえいえ、今やっと、青刈りがはじまったばかりのところなのです。無農薬で安全、良質な藁を手に入れるために自分たちで稲から育て、わら細工専用に原料の藁を作る工房は、おそらく全国的にも相当珍しいのではないかと思います。

家業ではあっても兼業であったわらの仕事。サラリーマンの仕事をしながら地元の注連縄だけを冬の間制作してきたお父様の代から現当主の甲斐陽一郎さんが「この仕事を専業にする」と宣言し、高校教師を辞めてわら細工一本にかけてスタートを切ったのが5年前。今でこそ全国から注文が殺到し数量を制限しなければならないほどですが、専業でゆくこと自体不安ではじめは途方に暮れたと話していました。完全予約制でしか注文を受けないのは、どうやっても一日に作れる量に限界があること、ストックして置けないことが理由です。今年の1月に工房を訪ねた際、わらで縄を綯うところを見せてくださいました。縄を綯うことそのものよりも、藁をしごき、屑を払い仕上がりが美しく揃うよう整える作業に膨大な時間がかかるのだということを教えて頂きました。そして、質の良い藁を手に入れることの難しさも。
上の写真は祝酉。かわいらしい姿でとても人気があり、昨年すぐに完売してしまいその後も一番お問い合わせの多かった形です。昔から神使いといわれ大切にされてきた酉のモチーフは『とりこむ』ということで商売繁盛を連想させ、お店に飾る目的で求める方も多いのです。この酉のねじってある部分などを見ると、いかに美しくささくれができないよう丁寧に整えられているかがわかると思います。

こちらが当店で窓にかけている祝結び。家内安全を願う願掛け飾りでねじりの異なる左縄と右縄の2本の縄が「しっかり結びつく」様を表現しています。

何よりありがたいのは、ずっと飾って置いてよいということ。松の内で外してしまわなくてもよいだなんて!確かにこんなに手の込んだお飾り、何日かだけ飾ってあとは焼いてしまうだなんて勿体なさすぎです。地元でもお祝飾りは、厄除けや無病息災を祈って購入するもので、一年中飾っておける縁起物。それでもやはり、あまりに古くなり色褪せたものを取り替えようという時には新年を機に新調するご家庭も多いとのことでした。考え方も取扱い方もとても自由で、特にルールはないとのこと。表裏があるくらいです。自分の家の、好きなところに飾ればよい。甲斐さんに聞くと「縁起ものですから、その人が気持ち良ければ何でもいいんです」と。ちょっと安心しますよね。一応地元では、下の写真の七五三飾り(七五三でしめなわと読むのだそうです)がお正月用とされていて、玄関や窓、神棚などに飾るのが一般的ということなので、お正月専用に、という方は七五三飾りをお求めになるとよいかもしれません。

これがその、高千穂伝統のしめ縄の形で七五三飾りと呼ばれる飾りです。『天神7代地神5代日向3代』下がった房の数が神様を表します。しめ縄は漢字表記で「七五三縄」とも書き、しめ縄の源流を汲むしめ縄です。これは非常にシンプルな形状なので、ここに葉付きの橙や松の枝などさらに縁起のよい小物をプラスしてもよいですし、家のどちらの方角につけなければ、というようなルールもないということです。

高千穂は古事記・日本書紀に記される天岩戸神話を伝える神社などがあるなど日本神話発祥の地として「神々の里」と呼ばれる地域です。和宏さんが「この地方では常に神が宿っているとして、一般の家庭でも一年中注連縄を飾る風習がある」と教えてくださいました。例えば失くしものをしたり病気の人が出ると郡司さんに相談に行くなど、神事が根強く町の人々の暮らしに浸透しているというのです。和宏さん一家も移住組なので、はじめはとても新鮮なことにうつったようです。でも、ご自宅にはやはりたくぼさんのしめ縄が飾ってありました。1月に工房を訪ねた際連れて行ってくれたどのお店にもしめ縄が飾ってあり、とても不思議な気持ちで見てきました。でも、そのような話を聞く前から高千穂にいるだけで自然と気持ちが清々しくなってきて、町全体にポジティブな空気が流れているのを全身で感じました。自分には高千穂の空気自体が肌に合っているのかも、と後になって和宏さんに話したら、やはり彼らも移住先を探して日本各地を渡り歩いていた頃同じ気持ちで高千穂を選んだのだと話してくださいました。

どの注連縄も、とても丁寧につくられていますので自然と手に取る時に丁寧な所作になります。こんな風に自然とわき出てくる畏怖の念や神聖な心持ちというのは、実は今の世の中にもっとも不足しているものではないか、とふと思ってしまいました。

毎日、何事もなく平和に暮らしている。その奇跡のような事実に感謝する機会が、なかなかないのです。それこそ、突然の事故や病気に見舞われるまで意識することがありません。わたしは無神論者ではありませんが、いわゆる宗教のようなものにはあまり接点を持たないで生きてきました。それでも、ある程度歳をとってくると年老いてゆく親や、子どもたちの健康や、いろいろなことが非常にリアルな重みを持って自分の身にふりかかってくるのを感じられるようになってきます。

仕事や家事、子育てに追われて日々バタバタと暮らしているとその日その日をやり過ごすことで精いっぱいになってしまい、今こうして家族無事に暮らしていられることそのものに感謝することを、つい忘れてしまいます。個人的にはその感謝すべき対象が、世に言うところの「神」という存在なんだろうなと実感できるようになりました。だかこそ、穏やかに迎えたいお正月には自分の周りを神聖な空気で清めることも大切なのだ、と。そう思えるくらいには歳を重ねてきたということでしょう。

毎日じゃなくてもいい。気が付いた時だけでもいい。神々への感謝の気持ちを忘れないよう、日々若々しく(?)健康に暮らせるよう祈ってみよう。心の中で祈るというシンプルな行為にさえ時間が割けなくなってしまっていたとしたらそれは「少し立ち止まってみた方がいいよ」という警告かもしれません。結飾りにふと目をやってその警告に耳を傾けられたとき「ああ、ありがたい」と自然に感じられている自分に気が付きます。きっと、飾りというものはそのためにあるのです。

どうか明日も、平和な一日でありますように。願わくば、世界も平和に近づいてくれますように。

太陽・月・地球、3つの輪がつながる平和を願う飾り物『平和むすび』。

実った稲を根からそのまま使った生命力あふれるしめ縄。「根付く」・「実る」意味深い飾り物『根つき穂つき』

当店でも今年度分のご予約を開始いたしました。
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