絵付けのうつわにしかない楽しみをさらに増幅。沼田智也さんの遊び心がわたしたちに深く求められる理由。

沼田智也さんは茨城県高萩市ご出身。同市に工房を構え主に絵付けの作品を中心に制作されています。

あえて真っ白ではなく、くすんだ色の磁器に細い筆で描く淡藍色の模様ははじめから骨董の雰囲気があり、無地のうつわの中でも浮かないさりげない雰囲気が人気の沼田さんの絵付け。染付と呼ばれる青色の絵柄のものも赤絵のものも、これまで無地のうつわしか使ってこなかったという方でも「これなら挑戦できそう」と手にしてくださる方も多いのです。青い絵のついた白い磁器は、日々暑さを増してゆくこの季節、どうしても手の伸びるうつわです。

そしてもちろん熱狂的な「沼田ファン」にとっては、次々と新しい柄が出てきてそこからバリエーションも増えてゆく沼田さんの作品からは目が離せません。花蝶に唐草模様など古伊万里で見られるような古典柄の写しからオリジナルの現代的な絵柄まで幅広く自分のものにしてしまう独特の世界観「沼田ワールド」が多くの人に響いているのにはきっと理由があるはず。

ひと口に絵付けとはいっても「和食器」というカテゴリーではくくれない無国籍感と思わずクスっと笑ってしまうような遊び心が沼田さん作品の最大の魅力となっているように思います。

特に最近の沼田さん作品にはアジアンテイストの柄・筆致のものが多く出てきていて、とても新鮮です。これまでの淡くはかない藍色の極細線で描かれた耽美で骨董的な作風も相変わらず素敵なのですが、こちらの太い筆のラインはまた違った路線で勢いがあり、新しい世界が開けたかのよう。しかも、昨年から耐熱のうつわも制作されていて耐熱特有の厚みのあるぽってりした形にその太め、勢いのある柄がピタリとはまった感じでした。こんな耐熱は見たことがない、この雰囲気ならきっと沼田さん独自の世界をオーブンウエアでも展開できる、と大絶賛。即沢山作ってくださいとお願いしてしまいました。試験的に作ったものを沼田さんがご自宅で実際に使っているという使い込んだサンプル品があまりにもカッコよくて。絵付けも焦げ目がついてゆくことで地肌になじんでアンティークのような佇まいなんです。どんなものでもそうなのですが、使い込むことでグッと風格が増す感じに弱いんですよね(笑)。


下の画像2点は耐熱のうつわを試している過程で偶然から生まれた作品。こちらは耐熱ではありません(笑)。褐色の色合いやそこに沈み込んださりげない花や魚の模様がタイやベトナムの古い陶器のようでエスニックな風情がある。サラダやスパイス料理が映えそうです。これまで沼田さんの作品ではあまり厚みのあるうつわがなかったので、わたしたちにとってはとても新しいイメージでした。

前回数点だけ入荷したタイル作品も沼田さんが時々気まぐれ?で製作するアイテムで、今回もイギリスや東欧の田舎の家が似合うイメージのタイル、見つけました。蚤の市でほこりをかぶって売られていそうな掘り出し物感が好きなんです(笑)。鍋敷きとして使っても、窓際に立てかけておくだけでもキッチンやバスルームの雰囲気を変えてくれそう。


バスルームといえば、今回初めて見た形のコップが「歯磨きコップ」にぴったり。探すとないのです、素敵な陶器のコップ。本当に歯磨きコップにしてもよいし、水飲み用コップとして水道周りに置いても絵になるようなアジアン雑貨的な個性が感じられます。もちろん、ワイン用にもいいですよね。他にも沢山、どこか異国情緒を感じてしまうエスニックな絵柄の作品を選んできました。


沼田さんの作品についてお話を聞くときには、どうしても絵のモチーフや描いた意図をうかがうことが多くなってしまうのですが、やはり裏側を知ることができるということは面白いですよね。もともと沼田さんという人はサービス精神旺盛で、ひとを楽しませたいという思いの強い方だと思うのですが(以前の記事をご参照ください。なかなかにユーモアのある人です)、それが作品にもストレートに出ていると思います。「絵心がある」という言葉に全て集約されているように思えるのですが、どこかに遊びがないと、同じような図柄を描いていてももっと窮屈で平面的な「模様」にとどまってしまうのではないか、と思います。

毎回工房にお邪魔して作品をひとつひとつ見せていただきながら「これって…」と絵柄の説明を沼田さんご本人にしていただく時間があまりに楽しく、何時間でもお喋りを続けてしまいます。沼田さん特有のちょっとひねったユーモアがそこら中にちりばめられているのです。

気軽に集めることができるカップやそば猪口には沼田さんの遊びが存分に発揮されている作品が多く、異なる模様のカップをあれこれ並べて見比べていると時間がいくらあっても足りません。中には何を描いているのか判断できない柄もあり、説明してもらうと一見気が付かない隠れた裏テーマがあったり少しずつ進化しているモチーフがあったりと興味は尽きません。

すべて一点もの。蝶が一匹だけ舞っているもの、野草と蝶がセットになっているもの、金魚の柄、メダカに見えて実は違うもの(笑)、見込みの部分にだけ小さくエビが描かれているもの、などなど。裏面と表面で描かれているシーンが違ったり、いくつも同じ柄が連続で描かれていても少しずつ変わっていたりと見飽きません。そしてどれも抑揚があってリズム感のようなものを感じるのです。

上手な人の文章は声に出して読まずともリズムよく感じられるのと同じように、沼田さんの筆にはリズムがある。おそらくリズムに乗っていないと良い線が描けないのでしょう。No music no life!と唱えていた沼田さんの工房ではいつもレコードプレイヤーからあらゆるジャンルの曲かかっていて、行くたびに守備範囲広いな~と驚かされます。上絵はすべて一発勝負。音楽のようにリズムに乗って一気に引ききってしまうのでしょう。下描きをしてなぞって描いてしまうと鮮度が落ちてしまいます。

沼田さんがカップに描く蝶が、標本のように仔細に蝶を観察して描かれたものではなく、キャベツ畑でひらひらと舞っている瞬間を切り取ったかのように感じられるのも、表情も見えないほど小さく描かれただけの亀が「母親を探している子亀だ」と感じてしまうのも、沼田さんがそのモチーフ単体ではなくそこにある風景やとりまく物語をイメージして描いているからなのだと思います。逆に、そういう風に何かを描けるような気分の時にしかできない種類の仕事なのでしょう。だからこそ小さく限られた平面の中にとある背景やストーリーを凝縮させることができる。たった一筆を走らせる間に。

夜、家でワインをいただくのにウチではもうずいぶん前からワイングラスで飲むことをやめてしまって、陶器のカップ、特に磁器のカップで飲んでいます。こんな風に絵のついたものであれば「今日はどの子にしようかな」とうつわを選ぶところから楽しむことができます。

来客がある時にワインを出すのにも、繊細なグラスだとお互い緊張してしまいそうですが磁器のカップならば安心。さらに柄違いのカップの中から好きな絵柄のものを選んでもらうところから宴が始まる、なんていうのも素敵な計らいですよね。沼田さんの工房にお邪魔した際、ご自身で生豆から焙煎したコーヒーを丁寧にハンドドリップで淹れて自作の小ぶりのカップで出してくださったのですが、それがすごくカッコよかった。小さなカップはお茶にもお酒にもコーヒーにも使えて便利です。

お子さんがいらっしゃる場合にはまた違った意味合いが生まれそうですね。ウチではそば猪口をこども用に使っていてあらゆるシーンで活用しています。ちょっとした酢の物や和え物からフルーツ、ヨーグルト、アイスクリームなどなど。今朝は初収穫の自家菜園キュウリをスティックにして出しました。これは自分の、という目印があることはとても良いことだなあと子供たちを見ていて思います。小皿や豆皿もワンポイントの絵付けがあると、なんとなく気分がほぐれますよね。豆皿はお箸置きにもなり、おもてなしにも役立ちます。

青い絵付けはやはり涼し気。こんなお椀でお抹茶を立てたら「チリーン」という静かな風鈴の音まで聞こえてきそう。

うつわが何かを容れる容器としてだけでなく、日々の暮らしの中でゆっくりと物語を紡ぎだしてゆくような、そんな存在にもなりうるということ。もしくは、ただのうつわであったはずの存在が、年月を経ていつの日にかその人の物語の中の小さなパーツになっているということもあること。

「お母さんあの赤い金魚のカップ、持って行っちゃってもいい?」なんて娘に言われる日も来るのかしらと、いつともわからぬその日を想って勝手にじーんとしてみたり、お母さんの想像は膨らみます(膨らみすぎ)。娘はまだ9歳。先読みしすぎの、しかもかなり使い古された感のある想像ではありますが…。

お気に入りの一点を見つけていただけますように。一見外側からはわからない文様が隠れていることもあるのでじっくりご覧くださいね。
沼田智也さんの作品はコチラです。

この記事をシェアする
Share on Facebook
Facebook
Tweet about this on Twitter
Twitter

関連記事