使い込むほどにしっとり、艶やかに。宮下敬史さんの木のうつわ。

工房で長年使い込んだ山桜のシンプルな鉢を見せていただいた時、そのゆっくりと年月をかけて染み出してきたような自然な艶に目が釘付けになってしまいました。

横須賀。大雨の月曜日。2度目にお邪魔する宮下敬史さんの工房は屋根を打つ雨の音に閉じ込められて、ただでさえ森に隔離されたような感じのする家が、いっそう孤立して見えました。船の底にいるみたい。はじめてお邪魔した時にも雨音が響いていたことを思い出しました。「すいません、雨男で」とすまなそうに笑う宮下さん。今回に限らず降られる確率が高いのだそうで「なんでですかね~」と首をかしげていました。

宮下さんとお会いするのは実はまだ4度目です。なのに、もうずっと昔から知っているような気がします。益子の近藤康弘さんにご紹介していただいた手創り市で初めてお会いして、パパろばと工房を訪ねたその大雨の日が2度目、昨年の『やっぱりごはん党』に出ていただいた際に納品がてら奥様と愛娘ちゃんを連れてつくばまで来てくださった時が3度目、そしてこの訪問。あれ?つくばでお会いした時は晴れていた気がするし(パパろばが娘ちゃんとボール遊びで盛り上がっていたから)、手創り市もとても寒い日だったけれど快晴だったし、そうそう雨男というわけではないのかも。もしかすると、横須賀という土地が雨がちなのでは…?港町、切り立った坂の多い独特の地形、海岸と山の近さ。湿った空気。

待ち合わせた横須賀中央駅のスタバから迎えに来てくれた車まで走る間ですでに服が濡れてしまい、その湿った服のまま3人で雨の音を聞いていると、なんだか雨宿りをしているような気分になってしまいました。そして世の中の雨宿りをするすべての人に共通する「何もすることがないからとりあえず話す」というルールを律儀に守っているみたいにワタシたち3人は取り留めのないことを話し続けました。正確にはわたくしママろばが八割方喋り倒していたのですが(笑)。仕事の話なんてほとんどしていません。お茶うけに出してくださった奥様手作りの焼き菓子がとても美味しくてそのベトナムのお菓子から旅行の話、子どもの話、知り合いの噂話…。そんな中でほんの少しだけ作品について話した時に飛びだしたのが、使い込んだプレーンなうつわ達の話題でした。

「特別な手入れなんて全然してないですよ。ただ、毎日ガンガン使ってました。パスタ食べたり、汁物盛ったり。油モノでも気にせず使ってるとその油がうつわに染みこむから、わざわざオイルを塗り込む必要がないんです。」

宮下さんは最近、昔よく作っていたようなあまり彫りをほどこしすぎていないシンプルなうつわを自分で再評価しているのだそう。「結局使いやすいんですよね。こんなんでいいんじゃないかな~と思えてきて」そう言いながら見せてくれたうつわはみな、いっさい装飾がなく厚みも適度にあるものばかり。「あんまりにも洗練され過ぎていてもかえって使いにくいんじゃないかと思って」と言われてから最近作ったという作品を見てみると、なるほど鉢の縁やお皿のエッジなど、どことなくこれまでに見てきたものにはなかった雰囲気がある。野暮ったくない程度に丈夫そうな仕上がりになっているのかも。このくらい微妙な縁の角度や薄さだけで、ここまで印象が変わるのだということに少し驚きました。そして漆仕上げのものは心なしかみな、使い込んで味が出てきたような絶妙な鈍い艶感がある。ちなみに上の画像は宮下さんが使い込んできたうつわではなく、今回新しく作られたもので栓の木を漆で仕上げています。

陶器以上に経年変化の激しい木のうつわ。けれど多くの場合その変化は色が褪せ白っちゃけて艶がなくなりただ古ぼけただけの、あまりポジティブな経年変化という印象がない。やはりちゃんとオイルで手入れしないとなあ、とそういううつわやツールを見るたびに思っていました。宮下さんが使い込んだうつわの艶は、オイルで手入れして新品のように保っているのとはまた違う、内側から放たれている艶でした。これ、カッコイイ。正直この状態で欲しい…なんてせっかちなことを言ってはダメですよね(笑)。

「うちももっとガンガン油モノ盛らなきゃダメだよ」と繰り返すママろば。パパろばもすっかりその質感やシンプルな形に心を奪われている様子。単純なワタシたちはすぐにでも試してみたくなるので、もうすでにどのうつわを自宅で使い込んでみようかとウズウズ。パスタにちょうど良いサイズにしようか、サラダボールにしようか…。結局今毎食ガンガン使い込んでいるのがこの下のリム皿。楢の拭き漆仕上げで、最初から唐揚げを山盛りにして、オリーブオイルとヴィネガーをたっぷりかけたサラダをわさわさと盛り付け…。「早く油吸え~」と言わんばかりの料理をヘビロテで盛っているのです。
写真は日曜日にパパろばに届けたお昼ご飯で卵入りビーフン。地あぶらとしこの露というゴールデンコンビで味付けしたなんちゃってエスニック風味です。「めっちゃ油っぽかった。すごい油使ったでしょ」と言われてしまいました。早く油を浸み込ませようと気が早っていたのかも…。でも味ははさておきこんな家庭料理さえカッコよく映っているのはこのリム皿のおかげです。サラダで濃い緑やトマトを盛った時にもバシッと決まりました。お料理の色をビビットに映えさせる背景色として最高なのです。そしてやはり、木のもつ温もりはまったく陶器のそれとは質の違うものです。木のうつわを好んで使う方は皆さんいいますが、軽くて、気兼ねなくラフに使えて、そしてなんにでも合う。木は一色にカウントされないニュートラルさがあり何でも受け入れます。懐の深さ、というのでしょうか。なぜだかホッとさせられてしまう安堵感があります。

同じ種類の材であっても個体ごとに個性が違う木という素材の面白さ。その個体の良さを最大限引き出そうと、真正面から向き合ってきた宮下さん。「漆仕上げものは年輪を隠してしまわないよう薄く残る程度に仕上げていると話していたのに、結構がっちり漆を重ねているものもあるんですね」と聞くと、最近は漆の扱いにも慣れてきて思う通りの質感を出せるようになってきたと話していました。木目の向きや断面の密度によって変わる色の濃淡など、偶発的な表情も魅力のひとつとなっています。「だからどんどん一点物ばかりになってきちゃって…」と困ったように話していました。もとの木が違うんだから、ひとつひとつ違う作品になるのは当たり前というような素材ありきの向き合い方から、さらに一歩踏み込んだ木との関係に思えました。美しく仕上げることより、その素材の持つ個性を見極めて長所を伸ばしてあげる。節や虫食い穴のように欠点となりそうな箇所でもチャームポイントだと褒めてあげる。まるで子育てのようにこちらの忍耐力まで問われてしまう向き合い方のようにも感じます。やはりそれは、月並みですがどれほど深く木という素材を愛しているかということに尽きると思うのです。

はじめて工房にうかがった時に書いた記事もぜひ読んでみてください。素材への思いは宮下さんが木の材を説明しだすとすぐに伝わります。身の上話が始まるのです。「この山桜、いいでしょう?これは本当に良い材でした。標高の高いところで伐ったものです」「こっちの楡は、神代楡といって文字通り神代から地中に埋まっていた材ですよ。密度が全然違います」…ワタシたちから見ればただ色が違うくらいの四角い塊をひとつひとつ手に取って、その材との出会いや性格を語ってくれます。最近長野まで出向いて丸太を一本ごとに買った、という宮下さん。もちろん角材として手に入れるより安上がりになるという利点はあるものの、何より決定的に違うのはその樹がいつ、どのような場所で伐られたものか素性がはっきりするということ。市場で仕入れてきた材は、その履歴までさかのぼることは難しい。樹は葉を落とし根を伸ばさない冬の休眠状態で伐られたものが最も理想的な材となるんです。そしてその後自然乾燥させたものなのかどうかという点もとても重要。木の種類や樹齢だけでなくそういった条件も最終的に作品の質に反映される、ということも初めてうかがった時よりさらに詳しく説明してくれました。

今使っている横須賀の工房は湿度が高くなる時期が多いため、厳密には理想的な環境と言えないのだそう。「長野あたりに移住を考えています」と宮下さん。生まれ育った横須賀を離れ、家族を連れて最も良い状態で樹を寝かせられる場所を探し、もっと広い工房で機材も充実させたい。急な坂の多い横須賀の町。大きな機材を運び込むのにも制限があり、限界を感じ始めているというのも大きな理由だそうで、もしかするとここ1、2年の内にも実現させたいとのことで、ああ、そうしたらこうして気軽に遊びに来れなくなっちゃうなあ、なんてくだらないことを考えてしまいました。

作品はそれだけでも多くのことを語ってくれます。でも、ワタシたちはやっぱり作品そのものだけでなく作家さんとの対話を求めているのだと最近よくパパろばと話します。その時間が貴重でならないのです。作品のことを語ってもらう必要さえありません。くだならい雑談、あわよくば酒を酌み交わし一緒の食卓を囲み…。そういった時間がワタシたちにもたらしてくれる充足感は、いくら仔細に作品を眺めていても見えてはこない何かを与えてくれます。そして願わくばワタシたちもその時間を通して得られた何かを、ろばの家に並ぶ作品たちに吹き込んで行けたらいいなと思うのですが…。ただママろばが長々と熱弁をふるうことによってではなくて、宮下さんの使い込まれた作品のように内側からじんわりと。自然に。

今回届いたうつわは特に、使い込んでその変化を見てみたいと思うようなものばかりです。自然と滲み出てくる艶や色の変化をお楽しみください。…ワタクシのように焦らずゆっくり、ね。

宮下敬史さんの新着のうつわはコチラです。


工房までのアプローチ(見えている屋根は宮下さんの工房ではありません。さらに奥にあります。)
工房へのアプローチがある坂道。写真で見るより急です。

 

 

 

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