なにより、ただ素直に美しいと思う。 そして、使えば使うほど透明度を増すという事実に、ますます惚れ込んでしまう。

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黒、赤、白溜め、赤溜め…この美しいカップたち、実はケヤキの漆仕上げです。茨城県鹿島市に漆工房を構える、小林慎二さんの作品。

正直に告白すると、ママろばもパパろばも漆器については何の知識も見解もなく、これまでなんとなく敷居が高いというかよくわからないからというか、とにかく接点が少なかった。パパろばは小さいころからお箸だけは塗り物だったので無垢の木だとなんとなく落ち着かない、と言って気にしている、というくらい。かくかくしかじかの塗りのお重でお節を食べたものだわ、という記憶も母から譲り受けたお膳の一式などもなく…。OL時代には塗りのお弁当箱を持ち歩いてはいましたが、それとて何塗りだったかも意識せずに使っていました。自分たちが日常使っていて楽しいうつわを紹介したい、という思いでろばの家をやっている以上、いっぱしのギャラリー気取りで漆器も取り揃えねば!と背伸びをしたって意味がない気がして…。ガラスの中にしまわれている、見せてくださいと頼むと白い手袋をはめて出してきてくれる、そんな世界にはどうしても馴染めなかったんです。

漆は日本独自の伝統…という理由だけをよりどころに大切に継承すべきものと見ていては、きっと自分たちが心から好きな漆のものには出会えずに終わってしまう。とある芸術作品を、よくわからないと言い切る自信がないのと同じ理由で、なんとなく「漆はいいよね」と感じなければいけないような縛りからは解放された状態でいたかった。きっとまだ本当に使ってみたい漆に出会ってこなかっただけだろう、と気長に構えていたい、と。

そんな中、昨年お邪魔した小林さんの工房で出会った漆たちは、明らかにこれまで漆につきまとっていた先入観を払ってくれるに十分な、生き生きと、本当に生き物のように表情豊かに見えました。ガラスの中に閉じ込められていなかったからかもしれませんが、あれを盛ってみたい、こう使っても面白そう、と次々と想像力を掻き立てられるのです。そもそも、はじめて小林さんの作品を見たのはパスタ皿で「金属のフォークでがしがしスパゲッティ食べてるけど全然平気だよ」と聞いてびっくりしていたのです。そのシンプル極まりないパスタ皿を見て、他の作品も見てみたいなあと思ったのがきっかけで、つくばで小林さんのうつわを扱っているmotomiさんにお願いして一緒に工房見学に連れて行っていただいたのでした。

小林さんの作品は、あまり漆のうつわに普段接してこなかった初心者の私たちが見ても、シンプルでハレの日感が強すぎない、日常的なイメージのものが沢山ありました。中でもコーヒーカップとして作られているこのシリーズは、フリーカップのアイコンを作るならこうなるであろうといったスタンダードなシルエットだからかいかようにも出来そうで、一目見ただけですぐ使ってみたい!と思えるものでした。流行すたれのない普遍的なフォルムに見えるのに、同時にとても現代的です。都会的、とまでは言い切れない温かみが滲んでいるところも気に入った理由のひとつでした。早速白溜めの色をひとつお店用に求め、つくばに帰ってすぐカフェラテを淹れてみたものでした。

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写真は、1年以上使い込んだ白溜めのカップ。写真から伝わるでしょうか。始めはマットな光沢で、今ほど下塗りの跡も透けて見えずこげ茶のモノトーンだったのですが、だんだんと明るく赤味がかってきて、下塗りの濃淡も透けて輝くように透明度が上がってきました。特に何かお手入れをしたわけではありません。使ったらすぐに洗い、乾いた布巾で拭いていただけです。

お茶にもコーヒーにも使っていますが香りは残らないし、とにかく軽くて丈夫。そしてあまり広く知られていないようですが、本当に保温性が抜群です。温かいものは冷めず、冷たいものは冷たいままで長時間保たれます。そのうえ、熱伝導率は低いので熱湯を注いでも手に熱は伝わりません。こんな理想的なうつわが、他にあるでしょうか?コーヒーカップという名前を便宜上つけていますが、何にでも使えるのフリーカップなのでアイスクリームカップにしても最適なはず。

でも、最初に求める漆器なのでしたら、できれば毎日愛用できるコーヒー、ティーカップとして使っていただいて、ぜひ漆の輝きの変化と口当たりの優しさを実感していただきたいものです。アイスクリームだと、毎日食べる人は少なそうだから…。その変化は、わたしたちの想像を裏切る形で見られます。陶器ならば、だんだんと黒ずんで落ち着いた鈍い色になるという経年変化が一般的ですが、はじめはくすんでいたものが、使いこむことで透明度を増して明るい色になってゆく、という変化は新鮮な驚きであるはずです。はじめはパッとしなかった近所の女の子が、年ごろになって突然女らしく美人さんに成長する、といったような嬉しい裏切り感がありますよ(なんじゃそりゃ)?

小林さんのうつわは、輪島の伝統的技法である布張りを下地に施してあるため飲み口の部分が補強されてさらに丈夫に作られています。気が遠くなるほどの手数をかけて下地を塗っては漆で強化し、また研いではさらに漆を重ね、という工程を繰返すことで、木という柔らかな素材が、割れないガラス、というほどの強度を持つに至る。しかも、ガラスよりも口当たりはやわらかで、わずかな弾力を残しているため吸い付くような肌触りなのです。

ずっと長く手元に置いて、時間をかけて愛でてゆきたい相手として、選んでみたくはなりませんか?

手入れは本当に簡単。金だわしなどで擦りさえしなければ普通の陶器と変わりありません。ぜひ、このうつわで漆デビューを(笑)。きっと、漆の魅力にはまってしまいますよ。

小林さんのコーヒーカップのページはコチラです。

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