ゆっくりと透明感を増してゆく漆。毎日使うコーヒーカップだからこそ、本物を手元に。

三年以上使い込んだ白溜めのカップ。左側がその使い込んだもの、右側が工房から届いたばかりの状態です。写真から色、質感の違いが伝わるでしょうか。始めはマットな光沢で、今ほど下塗りの跡が見えずこげ茶のモノトーンだったのですが、だんだんと明るく透明度が上がってきて、下塗りの刷毛目の濃淡が透けて輝いています。特に何かお手入れをしたわけではありません。使ったらすぐに洗い、乾いた布巾で拭いていただけです。使い込めば込むほど透明度が増し、透き通るような明るい色合いに変化してゆくということは、漆の楽しみの中でももっとも魅力的に感じられることなのではないでしょうか。

お茶にもコーヒーにも使っていますが香りは残らないし、とにかく軽くて丈夫。お店でカフェラテのオーダーが入ると、この漆のコーヒーカップでお出しすることもあって、皆さんいざ飲もうとするとその軽さに驚かれるようです。漆は保温性が高く、唇に吸い付くようなや柔らかい口当たりと、結露しにくい点からも、温冷問わず飲み物には最高なのです。このカップは茨城県鹿嶋市の小林慎二さんの手によるもの。漆離れが進む現代に、より身近なアイテムとして日常使いできるものをと、定番で作るようになったシンプルなデザインです。

あまり知られていないようですが、本当に漆は保温性が抜群です。温かいものは冷めず、冷たいものは冷たいままで長時間保たれます。そのうえ、熱伝導率は低いので熱湯を注いでも手に熱は伝わりません。こんな理想的なうつわが、他にあるでしょうか?エベレスト登頂の際に漆のカップを携帯する、と聞いてなるほどと深く頷いてしまいました。金属では凍って怪我をしてしまいますし、漆の軽さ、丈夫さが買われたのでしょう。コーヒーカップという名前を便宜上つけていますが、何にでも使えるフリーカップなのでフルーツやヨーグルト、それこそアイスクリームカップにしても最適なはず。

でも、最初に求める漆器なのでしたら、できれば毎日愛用できるコーヒー、ティーカップとして使っていただいて、ぜひ漆の輝きの変化と口当たりの優しさを実感していただきたいものです。アイスクリーム専用だと、毎日使うという人は少なそうだから…(笑)。その変化は、わたしたちの想像を裏切る形で見られます。陶器ならば、だんだんと黒ずんで落ち着いた鈍い色になるという経年変化が一般的ですが、はじめはくすんでいたものが、使いこむことで透明度を増して明るい色になってゆく、という変化は新鮮な驚きであるはずです。

小林さんのうつわは、輪島の伝統的技法である布張りを下地に施してあるため飲み口の部分が補強されてさらに丈夫に作られています。気が遠くなるほどの手数をかけて下地を塗っては漆で強化し、また研いではさらに漆を重ね、という工程を繰返すことで、木という柔らかな素材が、割れないガラス、というほどの強度を持つに至る。しかも、ガラスよりも口当たりはやわらかで、わずかな弾力を残しているため吸い付くような肌触りなのです。

ずっと長く手元に置いて、時間をかけて愛でてゆきたい相手として、選んでみたくはなりませんか?手入れは本当に簡単。金だわしなどで擦りさえしなければ普通の陶器と変わりありません。ぜひ、このうつわで漆デビューを。きっと、漆の魅力にはまってしまいますよ。
色は全部で4色。写真左から白溜め、赤溜め、黒、そして朱です。ケヤキの漆仕上げで、それぞれに違った成長の仕方を楽しめます。ろばのウチでは汁椀に赤溜めを使っているのですが、赤溜めは白溜めにくらべて色の変化はゆるやかで、けれどもしっかり確実に、紫味を帯びた赤茶が透明感を増してゆく過程を楽しめます。朱は最初から使い込んだような絶妙な色合いですが、一番不透明感を感じる色なので使い込んで透明感を増すととても不思議な、なんとも言えない艶を持ちます。そして、漆と言えば黒。漆黒という言葉があるくらいですから、透明感のある黒の色っぽさはまた別格です。気品という意味では一番際立った色なのかもしれません。けれども、わたしのようにカフェラテを飲む人には良いですが、ドリップコーヒーを愛飲する方には色が見えにくいという難点があるかもしれませんね。用途や好みによって、またその人のイメージによって、家族で違う色をそれぞれに選ぶというのも楽しいかもしれません。

長く、ともすれば子どもの代に受け継ぐまで本当に長く使い込みたい逸品ですので、どの色にするかは時間をかけてじっくり選んでいただきたいものです。悩んでしまいますね。

小林さんのコーヒーカップのページはコチラです。

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