一生使える漆の素晴らしさを現代のテーブルで。
ずう~~っと飽きのこない、小林慎二さんの漆。

『あんしんの食卓』の会期中、毎日お味噌汁をご用意しておりました。皆さん一口飲んで発する言葉は、「ホッとする~」でした。この感覚こそ日本人のDNA。もしかすると、白いご飯以上に日本人の郷愁に訴える味わいなのかもしれません。そして、日本の食卓にはずっと、漆のうつわやお箸が欠かせないものでした。

9000年という想像もつかないほど(何時代だろう?)遠い昔から、人類が「塗料」や「接着剤」として用いてきたという漆。今現在、これほど発達したと思われる技術をもってしても、漆を超えられる塗料は生まれていないのだといいます。いったい、漆のどこがそれほどまでに秀でているのでしょうか。堅牢性、耐久性、耐熱性、安全性。そして、他のどんな塗料にも生み出すことのできない、たとえようのない美しさと優しい手触り。本物の漆のお碗に口をつけたことのある人であれば、その吸い付くようなしっとりとした質感に、心地よさを感じないはずがありません。軽さや、持っても熱くない実利的な特徴よりも、その官能的な触感にまず、魅了されました。

太古の昔までさかのぼらなくとも、ほんの少し前まで漆は生活のあらゆるシーンで使われていました。建具や家具などは言うに及ばず、楽器や装身具、戦国時代の甲冑となると古い話ですが、漁で使われる浮きまで。なんと、つい何十年か前までは、缶詰の内部をコーティングしていた素材も漆だったそう!熱や湿気、酸、アルカリにも強い漆は腐敗防止や防虫の効果もあるため、食品に直接触れるうつわや家具に最適だったのですね。

そんなにも優れた漆が、ではなぜ急激にすたれてしまったかと言うと、ひとえに”高価”であることが最大の原因です。安価な合成塗料の台頭で、わたしたちの生活から次々と漆製品が姿を消していってしまいました。漆かき職人も減り続けており、現在では国産漆は国内需要の2%にも満たないのだそうです。…と、漆の未来を憂うお話を熱弁するほど、わたくしママろば、漆に詳しいわけでも漆を愛用しまくっているわけでもないので、エラそうなことは言えないのですが。

ただ、小林さんの漆のうつわの使い勝手の良さ、姿の良さをお伝えする前に、どれほどの勢いで漆が現代の食卓から姿を消してしまったのか、ちゃんとお伝えしておかなければと、ウィキペディアで調べて書いております。にわか知識ですみません(汗)

わたしたちが愛用しているのは、ろばの家の定番展でもおなじみの漆のコーヒーカップや汁椀、飯椀。そしてお箸。だから、お名前を覚えるのが苦手な方には「あの、コーヒーカップの人です。」とご紹介していました。使い込むほどに透明度を増し、内側からじんわり輝くような深い輝きを放つように変化してゆく漆のカップ。わたしたちもそうですが「あのコーヒーカップがマイファースト・漆です」という方がどれだけいらっしゃるか。それこそまさに、小林さんが願ったことでした。

「お椀やお重だとハードルが高くても、コーヒーカップであれば毎日使うものとして気軽に漆の良さに触れてもらえる」その狙いはドンピシャリでした。きっと、ママろばの熱弁に圧倒されてつい(笑)購入してしまったという人の中には、実際に使ってみてその口触りのよさ、保温性、軽さに驚き、「次はお椀も…」と漆に興味を持ってくださった方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。…いるといいな。

汁椀大(黒)

男女、老若関係なく、誰もが気に入って使えるようなユニセックスなデザイン。装飾を極限まで排し、ラインだけをより普遍的に、オーソドックスに、でも、すっきりと美しく整えてゆく。その、アノニマスな佇まいこそが、小林さんの求めるものだと理解しています。アノニマス=匿名性。汁椀は、看板にシルエットで描かれそうな、”THE ”お椀という形です。飯椀もしかり。コーヒーカップが、カップのアイコンとでもいうようなシルエットであるのと同様、それぞれのお椀が全て、アイコンのようなわかりやすい形です。例外というべきか、まゆ椀は現代的に高台がないデザインで、和洋問わずスープやヨーグルトなどにも使える、オールマイティーな形であるくらいでしょうか。
まゆ椀中(赤溜め)
まゆ椀小、中(赤)

「「この漆はだれだれの作品で…」と、ありがたがられるようなのじゃなくていいんです。誰のかわかんないような、サインもされてないような…。その程度の扱いでいいんです。ただ使いやすいなって思ってもらえたらもう十分すぎるくらいです。」

と謙遜している風でもなく率直に話す小林さん。食べることも、お酒もワインもお好きで(そのうえ私たちの敬愛する生産者のワインも話に出て来たので)、それだけでも初対面の時から「ああ、分かり合えそう」と勝手に親近感を感じてきた方でもあります。塗師というバリバリの子弟制度、いわば超伝統的な格式を重んじる古い世界でやってきた割りに、なんだかサバッとしていて面白い。実は、個人的にノリがとても好きな方なんです。そして、個人的に小林さんの漆の赤色が、とても好きです。ほかの方にはない、落ち着いた赤で男性にもぜひ使っていただきたい。

さてさて、お椀の名手小林さんはどんなお味噌汁がお好みなのでしょうか。気になる気になる。


小林慎二さんの好きなごはん、お味噌汁

Q1、パンと食べるものではなくお米と一緒に食卓に並ぶもののなかで、「これには目がない」というほど好きな献立はなんですか?
—鶏肉の南蛮酢け

Q2、ご出身は?
—東京都港区

Q3、ご出身地もしくは現在暮らしている地方の郷土料理、名物料理、ご当地食で好きなものとその特徴を教えてください。
—輪島在住中のかぶらずし

Q4、ご家庭のお味噌汁は、何出汁+何味噌が基本ですか?
—鰹節に信州味噌

Q5、お味噌汁の具で好きなものを好きな順にあげてください。
—1位:豆腐えのき
—2位:わかめ豆腐
—3位:玉ねぎ

Q6、お味噌汁はお好きですか?また週に何回程度お味噌汁を食べますか?
—毎日

Q9、今回のごはん党のテーマは、「ごはんは、段取りがすべて」です。自分で作るお料理で「得意料理」と呼べるものを教えてください。また、そのお料理のコツ・ポイント・こだわりを教えてください。
—イタリアン 鶏肉ソテー
皮面を焼くとき軽く押さえて反りを防ぐ。下処理の脂身、筋を丁寧にとる


小林さん、以前にも増してシンプルなご回答、ありがとうございます(笑)。…Q7、Q8抜けてるし。…ま、いっか。一番聞きたかったお得意料理が聞けたから。いかにもワインに合いそうです。

そして、小林さんがベスト1に選んでいるお味噌汁の具、豆腐えのき!実はこの組み合わせ、ろばのウチでは一度も食卓にのぼったことがなかったのです。会期中「ホッとする、お味噌汁」特集で初日にご用意したお味噌汁が、実は豆腐えのきでした。これが、ものすごく美味しい!どちらも別々にはお味噌汁に使っていたのに、なぜか一緒に具にしたことがなく、新鮮でした。この組み合わせ、ウチで定番化しそうです。

やっぱりなんだか、面倒くさいの嫌いそうで、好きです(どんな表現…)。面倒なアンケートなどお願いしてしまってすいませんでした(汗)。でも、お料理はとても気を使って丁寧に作られるんですね。ワタシなど脂身そのまんまでソテーしちゃいますもの。

「こんなにも手間暇かけて、気の遠くなるような時間をかけて丁寧につくられた作品、心して大切にご紹介したいと思います」だなんて、くどくど言おうものなら「そんな大したもんじゃないんで」とサラッとかわされちゃいそうです。もちろん、気の遠くなるような過程を経て、時間をかけて丁寧に作っているのには違いないのですが、そこだけを仰々しく強調しないところとか、なんだかいいんです。でも、そこを使う方に対して強調するのはやはり、ちょっと違いますよね。実際に使う人にとって必要な情報ではない気がするし「ありがたがって使えよ」と押し付けてるみたい(笑)。

「こんなもんですよ~」と笑う小林さんの椀はけれども、素晴らしくお味噌汁が美しく見えますよ。下のお椀は端反り(はぞり)椀と名付けられている、縁が少し外側に反っている形のお椀。今回DMにも使わせて頂きました。毎回お鍋から汁を入れる度に、縁の余白が美しいなあと魅入ってしまいます。お正月のお雑煮の、素晴らしく立派に見えた様子!吸い口のへぎ柚子がまたカッコよくて…。惚れ惚れです。

でも、うやうやしく使う必要は全然ないのです。だいたい、買うと綺麗なお箱に収まっている。あれがいけないと思う(笑)。それ相応のお値段がするものですから、お箱に入って手元に届けばそれは嬉しいです。満足度、上がります。でも、実は最近友人のお宅で違う作家さんの漆器を、わざわざ箱から出してお味噌汁に使うところを目撃してしまったのです。それ、毎回面倒じゃないですか?でも、箱も立派で捨てられないし、食器棚に仕舞う時わざわざ箱に入れてしまうという方、結構いるのかな、と想像してしまいました。

どうも、まだまだこの漆に対する「うやうやしたがり」現象って、根強い気がするのです。ガラスの棚から、白い手袋をはめてそおっと取り出すお店側の責任もあるとは思うのですが…。ウチでは、竹のカゴに他の陶器の飯碗などと重ねてガチャガチャ置いてありますが、それによって傷がついた覚えはありません。漆は、丈夫なんです。チビろばちゃんなど、お箸が持てない時からスプーンで飯椀を使ってきたので、さすがに内側は擦り傷だらけです。でも、目立ちません。持ち上げて透かして見なければわからないような細かな傷、ついて当たり前という気がします。買ったままのピカピカの状態をキープしようというのが、そもそも理に反しているのです。

ご飯を入れるので当然カピカピに乾くと洗いにくいですよね?水に数時間つけておくのも全く問題ありません。むしろ、気を付けなければならないところは極度の乾燥です。長い間使わず乾燥しきった場所で保管すると漆のヒビ割れや剥げ落ちの原因になるようですが、それとて相当長い期間放置しないとそこまではいかないでしょう。毎日お味噌汁やご飯に使って、普通に陶器と同様スポンジで洗い、さっと拭いて乾かす。他のうつわと同じです。特に難しいことはありません。毎日食卓で使うことが、一番のお手入れ法なのです。

もっともっと気軽に漆を日常使いしてみて欲しい。そのためには自分が心から気に入ったものを選ぶことです。漆だから、ということばかり強調してしまいましたが単純にこのシンプルな、とても優秀な素材の、軽くて丈夫で触り心地のよいうつわに、注目してみて欲しいのです。使い方だって、ルールはありません。飯椀を汁椀に使ったってよいし、逆もまたしかりです。大きなすじ目椀を盛り鉢として使ったって恰好がいい。漆は臭いもうつりにくいので、割れないガラスだと考えてもらえばいい。コーヒーカップをヨーグルトやフルーツにも使えるように、うつわも色々なお料理や飲み物に使ってみてください。
スジメ椀(赤)

お弁当など、まさに漆の良いところを実感するためにあるような容れものです。食べものを長時間入れておいても、臭いが気にならない。よく、プラスチックの容器にいれたままの食材に変なにおいがついてしまう、あれがないのです。職場ですぐにお弁当箱を洗えず、自宅まで持ち帰らなければならない方など、その違いにびっくりしていただけるはずです。そして、残り物をつめただけのようなお惣菜でも漆のお弁当箱に収まると、なんと豪華に、高級に見えることか!お椀に装われたお味噌汁もそうですが、もう、目を見張るほどの変身ぶりです。お昼休みのせわしないお弁当タイムが、パカリと蓋を開けた途端に料亭のプチ懐石に…とまでは行かないでしょうが(笑)、確実にお惣菜を詰める時の士気が高まります。インスタ映えならぬお弁当映え。真上から映して投稿しましょう。お弁当男子も、カッコよく漆黒の額縁に収まったお弁当を投稿してもらいたいものです。
弁当箱わっぱ

先程も登場した、DMのお味噌汁に使った端反り椀は、実はウチのチビろば君の愛用品。4年以上使用した赤溜めを、漆の質感、色の変化を見て頂けるよう棚に並べていました。2週間以上彼から借りっぱなしだったわけですが、久しぶりに昨日自宅に持ち帰ったら「これ、これだよ、やっぱり。これで飲まないとお味噌汁って感じがしなくて」と喜んでいました。きっと彼が一人暮らしをするようになっても、これだけは一緒に持って出てゆくはずです。

使い始めは小学生でしたが、いつしか中学に上がり生意気な口をきくようになりました。はじめ黒に近い、濃い小豆色だったお椀の色は、今では奥に赤い色が透けるような、透明感のある赤紫色の輝きを帯びてきました。

端反り椀(左から赤、赤溜め、黒)

ずっと、気に入って使い続けられるもの。個性や奇をてらわないシンプルな形。スタイリッシュすぎることなくアノニマスな、一見どこにでもありそうなデザインのもの。でも、だからこそ質のよい、丁寧に塗り重ねられた慎み深い色が際立って美しく見えるのかもしれません。

万が一ヒビが入っても、小林さんのうつわは、ほとんどの場合修理が可能です。陶器と比べると価格的に贅沢なものに感じるかもしれませんが、繕えば、一生どころか子ども、孫の代まで使い継ぐことができる。まさに、一生(+アルファ)ものです。お客さまがコーヒーカップを落としてヒビが入ってしまい、お店に持ち込まれました。小林さんにお直しをお願いしていたものが戻ってきた時、どこが割れたのか全くわかならいほど綺麗に全体が塗りなおされ、見違えるような晴れ晴れしい姿となっていました。わたしも、いつかチビろばちゃんが自分の飯椀を子(つまりワタクシの孫か!?)に譲りたい、となった暁には塗り直しをお願いしたいと密かに考えています。

コーヒーカップをオーダーしてくださった方はすでにご存じかと思いますが、小林さんはお一人で制作されています。現在在庫のない”ご予約”と表記のあるものに関しては、目安として半年から1年後の納品でとお願いしております。ものにもよりますが、たいていは半年程度で仕上げてくださっているのですが、タイミングにより半年以上かかる場合もございます。1年はお待ちいただかずにお届けできる見込みですが、どうか待つ時間も楽しみのひとつととらえてお待ちいただけますと、届いた時の喜びもまた格別かと思います。

時間と忍耐、極度の集中力を要する手仕事ですので、どうかその点だけはご了承ください

ああ、どんどん長くなってしまう…。隠れた人気商品、お箸も先が細くてものすごく使いやすいですよ、とだけ付け加えていいですか?

パパろばも自分の愛用のお箸を使用見本として展示していたので、会期中ずっと「太いお箸、使いにくっ!」と怒っていました。一度この細さとシャープさに慣れると、太いお箸が不便で仕方がないようです。ただしこちらは、赤は在庫限りでご予約不可なのだそうです。出会いですので、ご縁があった時にぜひお求めになって下さい。

久々の超絶長ダベリ、失礼いたしました。一生、ともすると次の代でも付き合うお相手です。どうかじっくりお選びください。

◎『あんしんの食卓』小林慎二さんのページはコチラです。
飯椀大(黒)

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