Part.1 ハレなケ #ふだんのうつわでおもてなし

クリスマスも過ぎてしまい、もうあと1週間ほどで今年も終わってしまいますね。壷田亜矢さん、和宏さんご夫妻の作品展~暮らす陶『ハレもケも』~は、年をまたいで12月15日から1月13日までの会期をを前半、後半の2部に分けて展開しております。前半である年内の展示は『Part.1 ハレなケ』として、お正月やお祝い事、季節行事などのハレの食卓をイメージした作品を中心にご紹介しています。…というと、なんだかハレの日のご馳走のためのうつわを集めた企画と思われてしまいそうですが、ちょっと、違うのです。

だって、いざ、ハレの日のための食卓を演出しようという時、普段は使わないとっておきのうつわを引っ張り出してこなければならないのだとすると、なかなかに面倒な騒ぎになってしまいますよね。お料理だけでも普段より準備に時間がかかるのに。しかも、そのとっておきのうつわの出番って、いったいどれほどあるのでしょう?

5年前にろばの家をオープンした時に書いたHPの自己紹介文の中でも触れているのですが、「2割で8割」という法則があるのだそうです。いわゆる、パレートの法則のことですが「ある事象の2割が、全体の8割を生み出しているという状態」を指すもので、明確な理論というよりは、わたしたちの生活やビジネスのシーンでよく起こっている、経験則に基づいた法則なのです。例えばお店の売上の8割を2割の顧客で占めている、2割の商品が全販売数の8割を占めるなど、マーケティングの現場でよく引き合いに出されます。そのaboutページには、こう書きました。

「要するに、ひとはたいてい自分が所有している2割程度のモノで生活の8割くらいの場面を乗り切っている、という統計です。洋服や食器など自分の持ち物について考えてみると、なるほどと頷いてしまいます。とても説得力があります。たった20%くらいのモノで、そんなにたくさんのシーンをこなしているのだとしたら、せめてその常に手の届くところにあるモノくらいは、こだわってみたいと思いませんか?めったに引っ張り出すことのない、ハレの日にしか使わないようなモノを張り切って選ぶより、毎日顔を合わせる相手を選び取ることにパワーをかけるほうが、バランスがよいと思うのです。」

逆説的に聞こえるかもしれませんが、こうとらえることもできます。せっかく思い切って選んだものならば、ハレの日以外にもどしどし使いましょうよ、と。もしくは、自分が好きで選んだものは、使い方次第でハレにもケにも活躍させてあげることができますよ、と発展させた方が実用的でしょうか。

ワタシたち一家が壷田家に滞在した間は、毎日、朝昼晩と宴のような食卓でした。でも、お料理をひとつひとつ見てみれば、特別ハレ感のあるような豪華なもの、とも思えません。青菜のお浸し、サラダ、おにぎり、お味噌汁…ふだん何気なく食べているような普通のおかずなのに、ただテーブルに並べられているだけでご馳走に見えました。もちろん、亜矢さん、和宏さんのうつわの力は大きいでしょう。でも実際にそのなんでもないお料理が、後々まで記憶に残るほど特別なものに感じられました。どれもこれも、素材を生かして丁寧に作られています。

亜矢さんが作ってくれた菜の花のお浸しのあまりの美味しさに「どうやって作ったんですか?」と聞いた時のこと。「これ?これはね~。」とちょっと勿体をつけるように「まずね、青菜をさっと茹でるでしょう?それをね、水でさらしてね。」「それで?」「それをギュッと絞るでしょう?そこにお醤油をかけてね、何でもいいから柑橘を上から絞るの。それだけ。」といたずらっぽく笑うのです。亜矢さんは、いつもそんな風に、ちょっとすっとぼけた返答をします。ユーモアセンスのある、とてもチャーミングな人なのです。「ただ、食べる直前に作るっていうことは大事かな」と後から思い出したように付け加えていました。

あれから何度も、その秘伝(?)のレシピでお浸しを作ってみているのですが、ついぞあの時のハッとするほど鮮明な味のお浸しを作ることはできません。15日のオープニングレセプションで亜矢さんを囲んで行った”ハレバール”でも、赤大根の塩もみを真似をして作ったのですが、どうにもパリッとできず結局甘酢漬けにしてしまいました。亜矢さんは「ただ時間がなかったからねえ、サッと作ったからそうなっただけよ」なんて答えていましたが。あの時の赤大根の鮮やかな色が和宏さんの黒い器に映えていた様子や、深い緑色のお浸しが亜矢さんのぽってりとした白磁の鉢に盛られた凛々しい姿がずっと目に焼き付いていて、そのまま『ハレもケも』という主題へつながっていったのでした。

そう、うつわだけではないのです。お料理だって、同じなのです。人を迎えるからといって、特に気取った、馴染みのないお料理を用意する必要などないのです。普段作り慣れた何でもないおかず。お浸しや、お漬物、ただ蒸しただけのお野菜。そういったお惣菜だって、十分ハレの日のお料理として通用するのです。

たとえば、こんなハレの食卓はいかがでしょう?お正月を意識して、和宏さんの黒い角皿、亜矢さんの白磁のお皿に、ちょこっとずつ盛り付けてみました。

ベースが黒か白かの違いだけでも、同じお料理の印象が変わりますね。上から見るとこんな感じです。


ひとつひとつはなんでもない普通のお惣菜でも、こうして一人前ずつきれいに並べて盛り付けるだけで、随分晴れやかな雰囲気になるものです。ポイントは、あまり詰め込みすぎず余白を生かすことと、柚子の皮やハーブなどの彩りをアクセントにすること。ただし、味わいに必要と思えた時だけにしたいですよね。あの、レストランのデザートにお約束のように義務的に添えられたミントの葉を「そろそろやめにしないか?」と提唱したのはどの有名なシェフでしたっけ?飾り切りのミニトマトとか、風味のためでなくただ飾りとして一本添えるハーブなどは、かえって古臭いイメージになってしまう気がします。

こういったスクエアのお皿だけでなく、大ぶりの鉢や丸いお皿も同じように複数のおかずを盛り合わせると、ちょっと目先が変わって新鮮です。大き目の平たいお皿というのは角、丸問わず実は使い手のある万能なお皿なのです。プレートとして前菜やお刺身、チーズなどを並べるためだけでなく、ただバケットなどのパンを切って盛ったり、唐揚げやポテトサラダなどのお惣菜を天盛りにしたり…。ひとりひとり、銘々皿として使うとハレの日の食卓っぽいですが、単品のおかずの盛り皿としてつかうとパーティーにも、毎日の食卓にも両方で大活躍。重宝しますよ。

そして、ぜひ使いこなしていただきたいのが小ぶりのお猪口。お正月用に酒器として購入したものの、普段あまり日使っていないというお猪口はないですか?下のかなり小ぶりのお猪口は和宏さんのもの。その下の亜矢さんの鎬のお猪口といい、和宏さんの歪みが美しいお猪口といい、白磁でもこうして厚みのあるぽってりしたものだとかしこまりすぎず、いろいろに使ってみようという気になれます。


こんな風に黒豆や、いくらや塩辛などのちょっとした珍味やパンにつけるパテなど、平らな面だと盛り付けにくいものや、ローストビーフのソースなど少量の液体を添える時にも便利です。一枚のプレートにひとつだけ小さなお猪口を挟んであげると、盛り合わせに高低差のメリハリがついて見た目にもキリッとします。一口サイズのデザートや果物を盛るのに使っても上品ですよ。
高低差をつける、と言えば!高杯(たかつき)の存在を忘れてはなりません。何を隠そう、ワタクシたちろばのウチでの高坏ブームは、壷田家の食卓にヒントを得て始まったものでした。祝祭的イメージの強い高杯を、チーズやナッツ、お漬物、果物などをさっとテーブルに出すのにさり気なく使っているのを見て、ものすごい衝撃を受けたのです。とにかくその気負わなさがカッコイイ!と思ってしまいました。後でじっくり観察してみると、あれこれお皿がひしめき合って狭苦しくなりがちな宴のテーブルでは、高杯は高低差のおかげで場所をとらないのに皆でつつき易く、とても合理的なものだと気が付きました。

こんな風に、同じ白磁同士でも一段高くなっている、というだけでパッと目に飛び込んでくる上、お箸を伸ばしやすくなる。これは本当に目からウロコでした。早速自宅でも、リンゴをむいては高杯へ、ちょっとワインを飲むときのおつまみを高杯へ、お漬物とくれば迷わず高杯へ、といきなり高杯ヘビロテのはじまりです。それを和宏さんに報告した時には「そう、使いやすいよね~。僕らも高杯をもっと使ってもらおうとキャンペーン中なんやけど」とかなんとか笑っていました。

というわけで、「もっと高杯を日常の食卓で使いこなしましょう」キャンペーン、やっております(笑)。高杯だけでなく、お椀のような形のものでも高台が高いタイプのもの、片口などは同様の効果があります。たまにお客さまに「これってどういうお料理に使うモノなんですか?」と片口や高杯について尋ねられるのですが、もう「待ってました」と言わんばかりにあれこれ力説してしまうのは、そういう訳なのです。

特に、白磁というものはこういったカタチが最も美しく映える素材だと思います。その前提の上で、亜矢さんの時に堂々とした、時にひょうきんな表情を見せる、温かみのあるぽっかりした白磁には、唯一無二の存在感を感じます。どっしりと重たい雰囲気のもの(実際に重たい)、軽やかな雰囲気のもの(やや軽い)、と同じ亜矢さんの白磁でも大きく印象が違うなあと思って触っていたら、亜矢さんが「それはどっしり作ろう、と思って作ったから」とか「そっちは軽やかに仕上げたかったもんでね」と、サラリと言ったセリフがとても衝撃的でした。なぜだかそのセリフを聞いて、何年か前にYoutubeで見た指揮者でありピアニストでもあるダニエル・ボエンハイム氏の講義を思い出してしまったのですが、それを語りだすとまた大きく横道にそれてしまいそうなので、この場では割愛します。メルマガで説明してみますね!

そんなママろばの心の中はさておき、まずは皆さん、お二人の、リアルに暮らしているような、生きたうつわの魅力に触れてみてください。そうして、普段作り慣れたお料理を盛ってみてください。花器には、その辺に咲いているような山野草を一輪、挿してみてください。きっとあなたの食卓を、暮らしを、より豊かに、より楽しく輝かせてくれる、頼もしい相手となってくれるはずです。ハレの日も、ケの日も。気がつけば8割以上、いえ、毎日の暮らしの中で。すぐ隣に、寄り添うように。

壷田亜矢さんの『ハレもケも』の作品はコチラです。
壷田和宏さんの『ハレもケも』の作品はコチラです。

 

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