大江憲一さんの工房へ

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ろばの家の自宅、ろばのウチには割れたフリーカップがひとつある。ママろばが悲しそうに「あ~~あ」と新聞紙にくるみ、いつか金継ぎでもするつもりなのか大事に取って置いてあるものだ。実はこのカップこそが、大江憲一さんの作品との初めての出会いだった。お店をオープンする前なので、もう2年近く前の話になる。何かの話をしていて、「そういえばあの割れたカップ素敵だったよね~、誰が作ったんだろう?」と聞いてみると、ママろばが奥でゴソゴソしている。何をしているのかと思ったら、そのカップを保管していた箱を出してきた。カップの底に作家さんの名前を書いていたらしく「norikazu oe」と記したテープが貼られていた。それにしても、作家さんの名前をちゃんと貼っておいただなんてめずらしい…ナイスだぞ、ママろば!と感心した覚えがあった。
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後日そのnorikazu oeというメモだけを頼りに調べてみると、なんとまあ沢山、大江さんの作品がでてくるでてくる…。急須やポットにピッチャー、洗練されたシンプルなラインのお皿や鉢などが続々。小さな鳥がついた急須や、野菜をモチーフにした箸置きなど遊び心のあるチャーミングな作品も色々でてきたが、圧倒的に醤油差しで有名な作家さんらしいことがその作品のヒット数からうかがえた。ペンギンや小鳥の姿を連想させる可愛らしい佇まいながら、非常に優美なシルエットを持つ存在感の強い醤油差しだ。色も、白磁や鮮やかなルリ釉、金属味を帯びた黒などバリエーションがあるが、どれもそれぞれに魅力的だった。こ、これは欲しい!!高鳴る気持ちを抑えつつ、何件かのお店に問い合わせてみたがどこも在庫切れ。調べるにつれ、それが美しい姿をしているからだけではなく、恐ろしく切れがいいことで有名であることも伝わってきた。ますます使ってみたい気持ちに拍車がかかる。結局はそれから何ヶ月後に都内で行われた個展に出かけ、実際に水で切れ味を試させてもらったのち(店内にいた他のお客様からも拍手が起きたほどの切れ味に感激しつつ)、自宅用にルリ釉をひとつ、仲の良い料理家の友人用に白磁をひとつ購入して、やっと(壊れていない)大江さんの作品を使える機会を得た。ポタリと一滴落としてはやめ、スーッと出してはピタッと止め、とお醤油をたらすたびに「おおお~~」と感動を反芻する毎日に、大江さんへの憧れがどんどんつのっていく。どこからどう見ても超ご多忙、という印象の大江さん。むむう。どうしよう…

単細胞の私はとにかく直球勝負で行くしかないので、断られることも覚悟でまずはお願いしてみることに…。知人の助けもあって、何とか取り扱いを受けてもらった形だったが「とにかく時間がかかってもいいのでしたら」と念を押されていたので、入荷は相当先になるものと覚悟はしていた。それでも、いつかは大江さんの作品を自分のお店で扱わせて頂ける、そう思えるだけでも祝杯をあげたほど嬉しく、いつまでだって待つつもりでした。そしてとにかくご本人に直接話をうかがってみたい。その気持ちを抑えられず、3月に都内のギャラリーで個展をされた時、無理にお願いして在廊日でもない日におしかけ初めてご挨拶することはできたのですが、彼の仕事への興味はますます膨らむ一方でした。
そんなこんなで月日が流れ、先日ママろばがチビろばちゃん達を連れて札幌に帰省していたスキに、これは行くしかない!!と急に岐阜行きを決意。常に忙しそうな大江さん、果たしてお時間をもらえるだろうか。ダメなら岐阜行きは諦めようと思っていただけに、OKだった時には嬉しかった。本当に感謝です。

こうして工房に伺えることになったのですが…なんせ右も左もわからない。最寄り駅からレンタカーを借りて工房へ向かう。住所をナビに入れて進んでいると、どんどん山道?へ。こ、これは大丈夫か?と思いながらも進むと完全に峠の様なところになって若干不安になったので、大江さんに連絡しようと思ったら、携帯も圏外。。。久々に見る圏外の表示に唖然。若干迷いながらも何とかナビの住所に到着。右を見ても左をみても森…こんなところに本当に工房があるのだろうかと強烈に不安に、、、奥に入っていけそうな小道があったので歩いて見に行くと、車が見えた。ここしかないだろ!と行ってみるとそこに大江さんが。ああ、無事到着。

目に飛び込んできたのは、だだ~んとでっかい工房。いや、この大きさ半端ないです。今まで伺ったことのある作家さんの工房の中でも段違いの大きさに、ただただびっくり。元は彫刻家さんのアトリエだったというこの建物、車も何台も軽く入るほどの広さ。す、すごい…

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大江さんの飼っているにゃんこのチヨさん。もう15歳のチヨさんはうつわを避けてゆっくり工房内を歩いたり、座ったりマイペース。

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どでかい工房に置かれた作品を置く棚。棚も大きいが工房が大きすぎて小さく見える…

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まさか巨大な醤油差しのボディか!!!と思って聞いてみたら、某ホテルの為に作った壺?だとか。こんな巨大な醤油差しがあったらビビりますよね・・・

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大江さんらしい遊び心を感じる作品。

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醤油差しの話をしている時に何かの拍子で、思い切ってずっと気になっていたことを質問してみた。「毎回、同じものを作り続けていてモチベーションを保てるんですか?」もちろん、同じものと言っても悪い意味で言っているつもりはない。同じと言っても、その時々に目指すものは違うかもしれないし、同じ色や形に作っても、出来たものが同じとは限らない。それはわかっていたが、敢えて聞いてみた。これだけ突出して醤油差しが有名だと、オーダーをこなすだけでもかなりの量だと思うし、加えて年何回も入っている企画展では百点単位で作ることもあるだろう。累計したら、いったいどれだけの数を作ってきたことになるのか想像もつかない。彼なりに、葛藤やプレッシャー、悩みもあるのではないだろうか。でも、戻ってきた答えは想像に反して、ものすごくシンプルでわかりやすいものだった。
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「やっぱり楽しくないと。」

 

工房でお話を聞かせてもらった中で、最も印象に残ったこの言葉。大江さんが本当に陶芸が好きなんだと感じられるひと言だった。その中に、なんの迷いも不自然さも感じられない、きっぱりした言い方だった。たぶん本当に「造る」という行為自体を楽しんでいるんだ。どんなにたくさんの数をこなしていても「やらされてる感」に追われているムードが微塵もない。この後に伺った常滑の大澤哲哉さんも「大江さんはとても忙しいのに、常に新しい事にも挑戦している。ほんと、すごいっす。」と話していた。展示などの準備や、作陶に忙しい日々を過ごす中でも、意欲的に色々な事に挑戦できるのはやっぱり楽しいからだなんだなあ、と、この言葉を聞くと妙に納得してしまった。プライベートな時間も釣りやお料理など、何事も本当に楽しんでいるのが伝わってくる。多分人生そのものを楽しんでいるに違いない。それは実は彼のフェイスブックのコメントなどからなんとなく感じていたことだったけれど、暑い工房の中でお互い汗をかきながら話しをして、よりリアルに実感することができた。そんな大江さんが作る生活道具が楽しくないはずがない、と改めて思えた一日。強行突破だったけれど、ここまで来て本当によかった。長い間お待たせして待ったからと、ほんの少しだけ作品を分けて頂くことまで出来、コーフンしてつくばに戻ってきました。

お醤油差しも少量仕入させていただきました。実は、9月9日に行われるワインインポーターの「ヴィナイオータ」さんの食べる試飲会(飲食店さん向けの試飲会)に出させて頂くことになっているので、そこでプロの料理人にも大江さんの作品の素晴らしさを見てもらいたいと目論んでいるのです。最強のお醤油「梶田商店」さんのお醤油が出るなら、お醤油差しも最強でなければ!と思って大江さんにお話をしたら了解していただけたので、最高の組み合わせが実現しそうです。

「ちゃんと仕事してるんですよ。」と見せてくれた制作途中の醤油差しのボディ。相変わらず美しい鎬と形(2015年7月訪問)。

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