momento poetico #8 前田育子さん

カモメ、島、灯台、と題した作品。名前はついていないけれど、ヒトデや貝、船の一部のように見える作品たち。今回前田育子さんは、ろばの家に”海の音”を届けてくださいました。海水浴客でにぎわう夏の海ではありません。少し季節外れなのか、それとも早朝でまだ人気がないのか、潮騒だけが遠くにかすかに聞こえて来る…そんな静かな、淡い灰色に煙る海のイメージです。実際に何をモチーフにしているのかわからないのに、なぜだか海を思わせる、そんな立体もあります。


”積”とだけ記されていた高さ35cmほどの黒陶は、組み立てると船のように、バラバラに置くと海に浮かぶ島々のようにも見えて、なんとも幻想的です。同じく黒陶の、立てて置くタイプのオブジェにはカモメが一羽。どちらも、何かこれから物語が始まるような、そんな予感を与えてくれます。



見る人によって幾通りもの解釈があり、幾通りもの物語の入り口がある。前田さんはこういう、物語性のある静かに強く印象に残る作品に、とても向いている作家さんなのではないかと思ってしまいます。うつわも文句なしに素敵なのですが、オブジェに関してはまた格別に、伸び伸びと羽を伸ばして制作しているような清々しさがあります。前田育子という人の魅力を、存分に発揮できる場、なのでしょうか。

 

前田さんのペーパーウェイトが好きで、練り込みのキューブ型のものや石のような形のものを、オープン以来時々いただいていました。層シリーズのうつわの間に、忘れ物みたいにポンと紛れ込ませておくのです。水にインクを垂らしたような練り込みのマーブル模様が美しく、何より触った時のすべすべの肌が心地よい。「ヤスリで磨いていると心が落ち着くの」と、ずいぶん前に前田さんが話していたのを覚えています。

「そうだ!ろばの家にペーパーウェイトを買いに行こう。」と決心してやってくる人はおそらくそう多くはないはずです。わたしもペーパーウェイトを探しまわった経験はありません(笑)。でも前田さんのペーパーウェイトは、入荷するといつの間にかお店から消えているのでした。なんとはなしに手にした人がなんとはなしに買って行くのでしょう。恐らくは、全く買うつもりなどなかったのに。ひとつには、それほど値段が高いものではないということもあります。でも、この世の中にペーパーウェイトほど「なんとはなしに所有物となる」存在もないのではないか、と思っています。それはきっと、所有すべき理由を必要としない存在だからなのでしょう。

今回『momento poeticoモメント ポエティコ』の展示の間、お店の入り口を入ってすぐのところに、こんな注意書きを書いて貼っておきました。

「何に使うんですか?だなんて、聞かないでください。何にお使いになるのかは自由です。たいていのものは、ペーペーウェイトとしてお使いになれます。でも、何も使い途などなくても、心に効くものも沢山存在すると思うのです」と書いた紙です。

わたしの中では今回、この小さな、青い作品が心に効いてしまいました。初め「なんじゃこれ?」と思ったのですが、毎日見ている内にたまらなくその美しさが沁みてきて「ああ、キレイだなあ…」と、とくとくと眺めてしまうのです。深く碧いルリ釉に光が反射してキラキラと光っています。”アーティチョーク”という名前がついていまいた。「ああ、確かに。」…アーティチョークと聞いて、確かに、という感想以外の何かを持ち得る人が存在するのでしょうか(笑)。

前田さんは、本当に面白い人で独特の間合いというか、不思議なムードを持った女性です。毎年いただく年賀状には、詩とも、独り言ともいえない一人称の文章が書かれていて密かに楽しみにしています。アンケートの回答を読んでもやはり、その特有のムードは伝わってきて「やっぱりこの人、面白い」と嬉しくなってしまいました。


momento poetico#8 前田育子さんへの質問

Q : 最近読んだ中で印象に残ってるいる本や記事、文章があれば教えてください。
A : 我が町白老で170センチのオヒョウが水揚げされた。凄い‼️と思ったが、せっかくそこまで育ったのだから、まだ泳がせてあげたかったなぁ。

Q : 今気になっている、読みたい本や写真集などあれば教えてください。
A : 沢山ある。一番は、内田也哉子『ペーパームービー』かしら。

Q : 好きな作家さんのお名前をあげてください。
A : 誰かなーーー。

Q : 読書をする時は、どんなシチュエーションが多いですか?
A : なかなかかなわないけど16時ごろに西日が入る窓の脇の椅子にすわり読むのは心地よい。

Q : 自分の人生や生き方に影響を与えたような本、文章、言葉を教えてください。 もしくは、座右の銘としている言葉、お気に入りのフレーズをあげてください。
A : パール バック 『大地』は勧められて高校生の時に読んだ。うる覚えだが力強く生きる女性の姿が印象に残る。

好きな言葉:
「明日死ぬかも知れない、 と思い生き。永遠に生きるように学ぶ。」
「やるべきことをやる。 やりたい事は趣味でやる。」


170cmのオヒョウ!!…確かにビックリです。

前田さんのいう我が町白老は、実はわたくしママろばの生まれ育った町。北海道の胆振地方、登別市と苫小牧市の間にある人口1.7万人ほどの小さな町です。今は実家が札幌に越してしまって久しいため、長いこと訪れていませんが最後に行ったのは前田さんの工房を訪ねた時…だから6年も前のことです。太平洋に面していて漁港もあり、河川や湖、滝も多く、山岳地帯は大部分が支笏洞爺国立公園に属する自然の景観に恵まれた土地なのですが、その価値に気づくことなく過ごしていました。アイヌ部落で有名で、2020年には国立アイヌ民族博物館が開設されるそうですから少しは話題に上るでしょうか。北海道でも有数の豪雨地帯でどんよりと曇りがちな印象が強く、それゆえ白老の海を思う時、灰色の風景が浮かんでくるのだと思います。前田さんの作品から受けるわたしの印象が、青い海ではなくて灰色の海なのはきっと、それが理由なのでしょうね。

前田育子さんの作品をmomento poetico Onlineページに掲載いたしました。



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