momento poetico #7 渡辺隆之さん

板、と名付けられた焼き物。小石や砂利が混ざったままの原土を平たく焼いた長辺が20cmほどの作品で、静岡県伊豆の国市で制作する渡辺隆之さんの手によるものですです。今回この『momento poetico』、うつわでも、うつわでなくてもよいものを、とお願いして出してくださった作品は「これは間違いなくうつわとして作ったであろう」ものと「うつわとして作ったのではあるまい」ものと、容易に想像のつくものばかりでした。

その中で、この”板”とだけ書かれていた上の作品は、おそらく後者なのだろうけれど前者である可能性も拭いきれない、微妙な立ち位置にありそうでした(笑)。でも渡辺さんはきっと、どう使うかというところまでは限定していないでしょうし、正直、どう使うかを決めるのは所有する人の自由だと思うのです。明らかにうつわとして作られているものでもオブジェのように飾って置きたいという人もいるし、逆もまたしかりです。下の画像は全て”お皿”として渡辺さんが小皿、中皿、大皿という風にサイズ別に作っているうつわですが、会期中はこうして重ねてオブジェのように配置していました。今回初めて届けてくださった赤茶色の焼き締めが(上から3枚目と4枚目)、他の色と重ねた時に濃いローズに見える配色が楽しく、思わず薄桃色のトウカエデの種子を散らして飾ってしまったのです。

土が焼かれ、形や色を変える過程にもっとも惹かれる、と話していた渡辺さん。工房の周りや旅行に出かけた際、土がむき出しになっている崖などを見つけると思わず掘ってみたくなるのだそうです。そして、崖から落ちてきて道端に転がっている土の塊の中で、時折、とてつもなく美しい造形物と出会ってしまうのだそうです。そんな時渡辺さんは、ティッシュなどにくるんでそっとその塊を持ち帰り、大切にとって置く。そして自然の生み出す造形の面白さに見入ってしまうのだと。


”ギザ”と名付けられたこの一連の作品は、そのようにして渡辺さんが出会った土の塊に釉薬や泥を浸み込ませ、焼成してさらに形を整えて作り上げた、オブジェです。自然が生み出す形の不思議さ、そこに何かを見出す渡辺さんの感性、異なる原土が持つそれぞれの面白味、焼成して生まれる変化…そういった複数の要素が絡み合い、崖から転がってきた時の様子とは明らかに違った在りようの物体としてこの世に生まれ変わったモノたち。本当は、どういう意図で渡辺さんがそれを作っているのか、どういった制作手順を踏むのか、もう一度きちんと確認してからご紹介しようかと思っていました。でも、じっとこの作品を見つめていると、それは不要な、下手をすると余計な情報でさえあるように思えてくるのでした。


この存在感。…この、面白味。もし許されるなら、ただ一点だけは強調しておきたい。それは、この美しい造形物は自然が生み出したものでも、自然の模倣でもなく、”渡辺隆之さんというひとりの人間が作り出した作品なのだ”ということです。だって、そうでなかったら、わたしたちがこの作品をここに並べる意味が無くなってしまう。

海や河原で拾った石など、自然界に存在する造形。それを砂に押し付け窪ませたところを型として泥漿を流し込む。その”砂鋳込み”という手法でつくられるうつわ。型は一度泥を流し込んでしまうと使いまわしはできないため、全く同じ形のもの、というのは存在しない。そのテクスチャーまでが本当に天然の石のようで、模様もさまざま。裏返すと本当に河原の石と見分けがつかないので、はじめてろばの家に渡辺さんの砂鋳込みのうつわが届いた時には全て裏返して展示したりして遊んでしまいました。砂浜で夢中になって貝を拾い集める子どものような無垢な気持ちを、久しぶりに思い出させてくれた様子はすでにご紹介しています

「ろくろで仕上げようとすると、いつまでも完成させることができなくなってしまう」というジレンマから逃れ、「自分で造形を創作しているわけではないけれど、ちゃんと自分のコンセプトも落とし込める」というところが居心地がよく、現在のところはこの砂鋳込みの手法に落ち着いている、と話していました。

今回は、先にお話した新色の赤土の作品に加え、漆仕上げの黒いシリーズがひときわ目を引いていました。一般の漆器の、木地の上に塗られた黒い色とはテクスチャーが違って、何とも言えない深味のある黒です。

ブラックホールのように、吸い込まれてしまいそうな深い、濡れたような黒。使えば使うほど透明度を増してゆく漆の性質を考えたら、経年変化も楽しみなうつわです。

ふたつと同じ形のない、河原に転がっている石のようなうつわ。本当に転がっていた土の塊から再生された造形物。その一見異なる目的で作られた、共通項を持たないように見えるものたちは、実は、出発点が非常に近い気がします。つい何でもワインと同じように考えてしまうのですが、自然な味わいのワインを目指す生産者と話すと、みんな型で押したように同じ内容のことを言うのです。「自然をリスペクトし、人為的関与を極力排し、土地の個性を最大限に引き出すようただ、見守るだけ。自分は何もしない」と。けれども、そうして作り出されるワインは、どうしようもなくその寄り添っただけという人間の個性を反映させてしまう。そんなことを思い出しました。

うつわがうつわとして機能する、つまり容れ物たりうる空間と外界とを隔てる、境界的存在程度という、ギリギリの存在感。そんな独特の在りようが面白い砂鋳込みのうつわも、土の塊が偶然何かの形に見える時のような新鮮な驚きを追体験できる土のオブジェも、どちらもわたしたちから見ると、とても渡辺さんらしい作品に思えます。


これほどまで強烈に、それを作る人の世界観、宇宙観、そして土への無垢な憧れを閉じ込めてしまう作品には、なかなか出会えないのではないかと思うのです。


#7 渡辺隆之さんへの質問

Q : 最近読んだ中で印象に残ってるいる本や記事、文章があれば教えてください。
A : 恥ずかしながらこの人生、自らほとんど文字に向かっていないのですが、最近、長女の小学校の作文集『ささぶね』の内容はどれも秀逸でした。

Q : 今気になっている、読みたい本や写真集などあれば教えてください。
A : 寺田寅彦 『柿の種』 ←福江さんの影響です。

Q : 好きな作家さんのお名前をあげてください。
A : リチャード・バックの『イリュージョン』は好きです。

Q : 読書をする時は、どんなシチュエーションが多いですか?
A : 時間と精神に余裕のある時

Q : 自分の人生や生き方に影響を与えたような本、文章、言葉を教えてください。 もしくは、座右の銘としている言葉、お気に入りのフレーズをあげてください。
A : 小学生の頃、読んだ本『アインシュタインロマン』
大して理解はできていませんが、アインシュタインの『相対性理論』には多大な影響を受けました。もちろん今でも。人生がひらけたような感じです。
小林秀雄『無常ということ』
高校2年の国語の授業でやりました。 常なるもの、ならざるものについて考えました。


渡辺隆之さんの作品をmomento poetico Onlineページに掲載いたしました。

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