momento poetico #2 松本かおるさん

昨年長野県から石川県、輪島へと工房・住居を移し新たな生活をはじめた松本かおるさん。焼き締めという、釉薬をつかわずに土だけを焼く手法だけで制作するという貴重な存在ですが、世の中の焼き物好きが考える”焼き締め”のイメージを良い意味で裏切る、軽やかな作風がかおるさんの魅力だと思っています。よく”焼き締め界の新しい風”だなんて評されているのも理解できます。

焼き締めというと、備前の伝統的な作品に代表されるような、ゴツゴツとした粗い肌でダイナミック、”The 陶芸”的クラシックな作品、分厚くてガツンと重い焼き物を想像する方が多いのではないでしょうか。そして、薪窯ならではの窯変や灰を被った模様、火が走った痕跡など、より再現性の低い、一期一会的な味わいを愛でる、ちょっと通向きの作品。実はわたしたち自身、そういう印象がありました。かおるさんの作品に感じられる軽やかさ、シャープさ、都会的な雰囲気とは対極にあるイメージです。

かおるさん自身が放っている、自然な色っぽさ。ピュアでナチュラル、ノーメイクではなくすっぴんという言葉をあえて使いましたが、飾り立てない本質的な美しさが持つ魅力については、はじめて登場していただいた時にも記事にしています。本当に、こうまで作品が作者の佇まいをストレートに物語っている例というのもないのではないか、というほど人から受けるイメージと作品から受けるイメージがリンクしているのです。釉薬を使わず、土の種類や焼き方だけで色合いや表情が変わる。ヤスリを丁寧にかけ、さらに手で磨きこんだマットで滑らかなテクスチャーがかもしだす、優しい風情。極限まで装飾を排したシンプルなデザインだからこそ、素材やテクスチャーの違いが生きてくるのでしょう。そのシンプルなデザインの美しさが際立つのは、どうしたってろくろのチカラ、形の確かさのお蔭です。かおるさんの作品を並べると、ひとつひとつのフォルムの美しさ、土の表現の多様性に魅せられます。そしてこれらが、100%粘土だけから成り立っていることにいったん気が付いてしまうと、ひたすら感動してしまうのです。そして、花を活けてみた瞬間に、ハッと気が付くのです。そうか、植物なのだから、土に触れられて嬉しくないわけがないのだな、と。真っ白や色とりどりの華やかな花器も素敵と思いますが、粘土だけ、土だけの花器に生けられた植物は、より、自然の姿に近づくのではないか。花が安心する、というのでしょうか。

きっと花たちも、土が恋しいのです。備前の甕は水が腐らないと言われて、水瓶や花器に重宝されて来ました。焼き締めのうつわが微細ながらも酸素を通すから、という科学的な理由なのでしょうが、先人たちは、いったん切られてしまった植物が新鮮な水を求めることを、直感で理解できていたのでしょう。花持ちがよいというのは、植物にとってより自然な環境に近いということ。切られた花は、まだ生き続けている。生きているからには、息苦しい環境は望まないのです。

かおるさんに「焼き締めばかり作っていたら、化粧もの、釉薬を使った色物もつくってみたくなりませんか?」と聞いてみたことがあります。その頃は、「土だけでこんなにも表情が変わるのに、まだまだその魅力を引き出しきれていないという思いの方が強いんです。」と答えていましたが、今回は一歩そこから踏み出して、新たな表現方法を用いた作品も届けてくださいました。

それは釉薬ではなく、漆という素材でした。今回届いたのは拭き漆という技法で、漆を塗ってからさらに拭き取って薄く漆が残るようにしたもので、まるで使い込んで時代を経たうつわのような鄙びた表情に見えるものもあります。石川県輪島は、漆の盛んなところです。輪島という歴史ある土地に拠点を移したことが、彼女の生活、制作活動にまで与えた影響のひとつだと思うのですが、漆という素材にはずっと興味はあったのだそうです。これまで頑なに土だけの表現にこだわってきた中、輪島という土地に身を置いたことをひとつの縁として、自然な成り行きで作品にとり入れたというところが、かおるさんらしい選択と思えます。

かおるさんは今回花器だけで参加してくださっているのですが「例えば筒型の花器はツールスタンドのように使っていただいてもいいし、サイズがあえばもちろんビアタンブラーとして飲み物につかってもらっても。自由な発想でそれぞれに楽しんでもらいたい。」と話していました。ビールを備前の焼き締めで飲むと泡がきめ細かく立ち、泡持ちも良いということはよく知られていますが、最近ではかおるさんはご自分の焼き締めでヴァンナチュールを楽しむことにも目覚めてしまった様子。「ガラスのワイングラスと飲み比べると本当に味わいが変わるんです。わたしは、断然陶器で飲む味が好みで。」とお話ししてくださいました。

…おっと。そんなことをママろばに言おうものなら、ナチュールワインの醸造やら無添加ワインやらオレンジワインやら、話がどこまでも広がってmomento poeticoからどんどん遠ざかってしまいそう。収拾がつかなくなるので、ワインを陶器で楽しむ話は次回にとっておいて、かおるさんへのアンケートへと移ることにしましょう。


松本かおるさんへの質問

Q : 最近読んだ中で印象に残ってるいる本や記事、文章があれば教えてください。
A : 稲垣えみ子  『アフロえみ子の四季の食卓』

Q : 今気になっている、読みたい本や写真集などあれば教えてください。
A : 稲垣えみ子の『人生はどこでもドア ~リヨンの14日間』
読みかけなので読み終えたい。

Q : 好きな作家さんのお名前をあげてください。
A : 特にこの人というのはなく、その時に興味ある本を読みます。今は稲垣えみ子さん。

Q : 読書をする時は、どんなシチュエーションが多いですか?
A : お風呂の中。移動中の乗り物。

Q : 自分の人生や生き方に影響を与えたような本、文章、言葉を教えてください。 もしくは、座右の銘としている言葉、お気に入りのフレーズをあげてください。
A : 「感謝と祈りが自分の奥深くから湧き出て手からモノへ伝わるように」
大好きな草木染め作家さんの言葉です。


かおるさん、ありがとうございました。
では次回は、かおるさんの焼き締めで美味しいヴァンナチュールを楽しみながら、じっくり語り明かしましょう!

松本かおるさんの作品をの作品をmomento poetico Onlineページに掲載いたしました。


 

 

 

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