momento poetico #1 野口悦士さん

今回momento poeticoに参加してくださっている皆さんを順にご紹介させていただきます。

まずは、野口悦士さん。ろばの家には初めて作品を届けてくださいました。プリミティブで大らかな雰囲気と都会的でシャープな雰囲気が共存する独特の作風がことあるごとに目に留まり、ずっと気になっていた作家さんでした。なんとか実物を見られないかと都内で行われていた展示を見に出かけた際、ご本人にお会いしたことがきっかけで、こうしてご縁をいただけて本当に幸運だったと思います。

野口さんは長く種子島で作陶されていましたが、現在は拠点を鹿児島に移して活動されています。なんとデンマークやイタリアにも制作の拠点があり、実は今現在もオランダに滞在中。ちょうどこの展示がはじまる直前に日本を発ち、戻られるのは7月下旬とのことでした。なかなか3か国で並行して制作活動を行うという作家さんは少ないと思うのですが、それぞれの国、もしくは拠点とする工房特有の素材や技法をうまく取り入れながら、自分の作品に生かしていらっしゃいます。わたしたちが都内で見た展示では、同じ形のうつわをそれぞれ種子島、イタリア、デンマークの土、釉薬を使って焼いた作品があり、とても興味深い連作に仕上がっていました。

ちょうど優れた長編作家が、敢えて慣れない題材に挑戦するために短編で手慣らしをする、それに似た状況なのかもしれません。挑戦的な要素があるのに、やはり出来上がってみるとその人ならではの作風に仕上がっていて小気味良い、そんな印象なのです。もしくは、まったく文化の違う国の素材を前に、それでも料理をするのは野口さんというシェフ一人、といった状況。いずれの状況においても、味わいの核になるものは変わらないはずなのに、違った環境に身をおき、慣れない素材を扱う不自由さが、自分の想像を超えた結果を生み出す糧となる。何よりきっと自分自身が、その新鮮さにワクワクし続けていられるのではないでしょうか。

食べることにとても興味があるようで、野口さんの口からわたしたちがワイン関係の仕事をしていた頃の知人の名前が飛び出したり、逆にわたしたちが名前を挙げる料理人を野口さんがご存じだったり、と不思議なご縁が感じられるのも嬉しいことでした。

本当ならば、すぐにでも鹿児島にうかがって野口さんが考案したという”スイッチバックキルン”という窯(傾斜がなく水平で両方向に焚口と煙突がある、切り替え式の窯だそう)を見せていただいたり、ワインも大好きということなので一緒に飲んで語り合ったりしたかったのですが、残念ながら未だその機会を持てずにいます。ご出身は埼玉県で、種子島には純粋に陶芸のために渡られたとうかがい、なんとなくイタリア、デンマークもツテさえあればひょいっと身軽に渡ってしまうんだろうなあ、と想像できてしまいました。

鉄分の多い赤い土を生かした、うわぐすりを使わない原始的な焼き締めの力強さに魅かれ、種子島に渡ったのがどうやら24歳の時。それから7年後に種子島焼き(もともと種子島にあった能野焼(のきのやき)を復活させた)をはじめた中里隆氏に師事、その後野口さん自身が考案したスイッチバックキルン窯を築いて初窯、作家活動を本格的にはじめたのが2008年、今から11年前です。その後さらに北アメリカのアリゾナ州や日本の信楽でも乞われてスイッチバックキルン窯を築いているようですから、きっととても機能的な窯なのですね。その特殊な構造についてもいつかじっくりうかがってみたいものです。

初めてお会いした時の野口さんの印象はといえば、白い麻のシャツにさっぱりとしたデニム、細い銀のフレームの眼鏡で静かな声で話す都会的な人、といった感じ。建築家とか舞台監督とかにいそうな雰囲気で当たりがやわらかいんです。ゴツゴツしたところがない。そんな風貌で「これはイタリアで作ったもので、こちらはデンマーク…」なんて説明するのですから「カッコイイよね」「爽やか!ノグエツ~~~」と後でパパろばと盛りあがってしまいました。

わたしたちが特に惹かれたのは、野口さんが緑青(りょくしょう)と呼んでいるシリーズや、焼き締めの作品。ご自身が目指しているように「いつの時代につくられたのだかわからない」ような、出土品にも見える不思議な無国籍感があり、想像力をかきたてられます。時代も作者も特定できない、けれども静かに語りかけてくるような魅力のあるもの。

たった一度しかお会いしたことがないのに、好き勝手に主観的な印象を描いてしまいました。もしかするとお会いした時は在廊していた時だったので特別にこざっぱりしていただけで、本当はもっとハードなゴツゴツした人かもしれません。…そんな気はあまりしないですが(笑)、これからじっくり、作品とも、作っている人とも対話してゆけたらと思います。

淡々とお話する様子やお会いした時のスマートな印象から、割に真面目なイメージを持っていたのですが、作品が届いて先に納品書だけを見てみると「???」な作品名が続々と…。案外、ユーモアたっぷり、お茶目なキャラクターなのかもという気がしてきました。「…なにこの”へたれ”って。 ”UFO”ってのもあるけど?」と箱を開く前から、妄想ばかりがふくらみます。ここで種明かしをしてしまうと楽しみ半減なので、ぜひ先入観なく作品を眺めてみてください。いつの時代かも、誰がつくったかもわからない”へたれ”や未確認飛行物体。ナスカの地上絵、古代インカ帝国といった、歴史の教科書にでてくるワードが頭をよぎります。

野口さんにも、本や文章にまつわる質問にお答えいただきました。回答の最後に「今からオランダです。どうぞよろしくお願いいたします。」とあって、やっぱりいちいちカッコイイなあ~と思ってしまいました。


野口悦士さんへの質問

Q : 最近読んだ中で印象に残ってるいる本や記事、文章があれば教えてください。
A : 太田哲雄  『アマゾンの料理人  世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』

Q : 今気になっている、読みたい本や写真集などあれば教えてください。
A : 辻嘉一さんの本など

Q : 好きな作家さんのお名前をあげてください。
A : 立原正秋

Q : 読書をする時は、どんなシチュエーションが多いですか?
A : お酒を飲みながら読むことも多いので、いつもどこまで読んだのかわからなくなります。

Q : 自分の人生や生き方に影響を与えたような本、文章、言葉を教えてください。 もしくは、座右の銘としている言葉、お気に入りのフレーズをあげてください。
A : まずできると言え(最近どこかで見つけた言葉でメモしました)

今からオランダです。
どうぞよろしくお願いいたします。

野口悦士


野口さん、ありがとうございました!ちなみに当店で大人気のエリツィンこと岸本恵理子さんのフォンダン・オ・ショコラのカカオは、太田さんのカカオも使って作られているんですよ。日本に帰っていらしたら、オランダのお話もいろいろお聞かせくださいね。

野口悦士さんの作品をmomento poetico Onlineページに掲載いたしました。

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