蓋を取るのが毎日楽しみ!壷田和宏さんの自由な土鍋たち。

「ごはんを炊く鍋、ずっと探してたんです」という方、結構いらっしゃるんですね。「365日付き合うパートナーなんだから、こんな風に明るく愉快な相手がいい!」と、同じく長年ずっと探し続けていたワタシ、ママろばはすぐに飛びついてしまったわけです。「え?このクソ暑い真夏に土鍋?」とギョッとしていたパパろばまでが、包みを開けてどどどん!と並べた瞬間「わ、コレやばい。まじ、どれもこれも全部いい」と速攻納得してしまったほどの訴求力。えっへん、でしょうでしょう??

こんなにも楽しいお鍋さん、これまで出会ったことがありませんでした。なんとも言えないユーモラスなお顔。じっと見ていると見えない目と目が合ってしまう。ぱっかりと口が開いて話しかけてくる。…「はよ炊いて~な!」…ぷぷっ。こんなお鍋でご飯を炊いたり、お豆を煮たり…。炒め煮だってお任せください。使えば使うほど、風合いに味が出てきて貫禄も十分。そりゃあもう、台所の主役です。夜の寝静まった台所、ぺちゃくちゃお喋りをする小なべやフライパンたちに「おーい、ちゃんと休んどかんと明日しっかり働けへんで!」と一喝。頼りになる番長就任間違いなし、です。え?どこに仕舞うか困る?いやいや、片付ける必要なんてないでしょう?ぜひとも台所の一番目立つところにどかんと置いちゃってください。ろばのウチにもひとつ、とびっきりのがやってきました(すぐ下の写真の子です)。毎日眺めてはニヤニヤしています。これからずっと一生、この子で美味しいご飯を炊けるのかと思うと、それだけでお米の研ぎかたまで丁寧になってしまいます。毎回炊き上がりの蓋を取る瞬間が楽しみで楽しみで…。

さて、この表情豊かな土鍋たち。なんとはるばる宮崎県からやってきてくれました。西臼井郡高千穂の、壷田和宏さんの手によるものです。どんな作家さんともそうですが、壷田さんとの出会いは、またしてもろばの家にとって特別なものとなりました。ろばの家というお店としてのお付き合いだけではなく、わたしたちの人生においても大切なご縁。これからもずっとずっと家族全員で関わらせていただけたら嬉しいなあ~と思いながらつくばに帰って来ました。あまりに色々なことが起こりすぎて、でも何もかもが印象的で楽しくて、皆さんにその感動をお伝えしたい気持ちもかな~り盛り上がっているのですが、それを長々綴っているとまた例のごとく本題のお鍋にたどり着けないので、それは次回の旅行記に譲るとして(本当か?)、とにかく和宏さんの作品のお話をしましょう。

作品の中に、その人の魂まで乗り移ってしまったかのように感じてしまうのは、今回届いたのが土鍋中心だからで、たまたま大きい作品ばかりに目がいってしまうだけなのか、それとも和宏さんの作品はいつもこんな風なのかワタシにもわかりません。でも、今回届いたモノに関して言えば、大きいものから小さいものまで、土鍋で言えば取っ手の先っぽから蓋の裏まで徹頭徹尾和宏さんです。土鍋でご飯など炊けば、湯気がアラジンの魔法使いのように和宏さんの姿にモクモクと変形して「あ、どうも。使ってくれてありがとう」と控え目にお礼だけ言って消えてしまいそうな気がしちゃう(笑)。あ、ちなみに無茶苦茶低姿勢な人なんです。僕なんかの作品手に取ってくれるだなんて…的な。スキレット鍋の取っ手をつかんで見れば、和宏さんが鳩を調理する姿が目にうかぶし、阿蘇の土で焼いたという小鉢なんてその姿形だけで十分に愉快なんです。なんで?どうして?こんなにシンプルな、ただの丸っこい小鉢なのに?もう、何もかも200パーセント和宏さんすぎて、可笑しくなってきます。わたしにとっては、そう見えてしまうんです。…といっても、皆さん和宏さんがどんな方かわからないですよね。わたしばっかりすみません(汗)。こんな方です。

ご本人に聞かれたら怒られてしまうかも、ですが、一言でいうと「子どものような人」です。勉強が嫌いで嫌いで、ある時美大というものがあるのだと先生が教えてくれて、一日中絵を描いていられるということが夢のようだった。美術系の塾に夜中に忍び込んで一晩中デッサンを描いたりした、と話していました。小学生の時は、こうと決めたら絶対何があってもやり通すタイプで「今日は絶対に曲がらない」と決意したら他人の家の塀だろうが川の中だろうが、ひたすら真っ直ぐ歩いてびしょ濡れになって学校に行ったり…と、照れながら話してくれる笑顔は小学生のまんま。叱られて立たされている姿まで目に浮かんできそうです。呆れるくらいに好奇心旺盛で、無垢で。子育てについてお話をしていて「僕はずっと、子どもに憧れてきてるんで、ぜんぜん彼らを見ていて飽きないんです」と言っていました。子どもの感性が、羨ましくて仕方がないのだと。小学3年生の娘さんがつくるキュウリのサラダを見て「感性のほとばしる、完成されない自分でいたい!」とコメントされていたことがありました。一日ご一緒しただけで断言するのはおこがましいですが、おそらく和宏さんは本気でそう願っているのです。彼はきっと、モノを作る人間として、そして恐らくは自分の人生を懸命に生きる上でも、本気で心の奥底から、完成されない感性を切望しているのです。そして、それを本気で求め続けることは、実のところ、そう簡単なことではないのではと思うのです。時に、生きずらいのではないかと思ってしまうほどに。

陶芸を始めて20年以上。陶磁専攻を卒業した美大のある愛知県で、在学中に籍を入れた奥様とともに独立して登り窯を作ってからすでに2度県をまたいで工房を引っ越した。その度に南下して、ついに宮崎までたどり着いちゃった、と和宏さん。現在は高千穂で登り窯と穴窯を、自身で焼いた耐火煉瓦で一から作り、さらに譲り受けたガス窯を天ぷら油の廃油でも稼働するように改造。その通称「てんぷら窯」はすこぶる好調。車も廃油とガソリンを併用できるようにしています。「お金がない若い作家さんにもっと知ってもらえたらいいんだけどね」と、廃油を燃料にした窯の情報を発信してゆきたいとも話していました。いわゆる移住組なわけですが、田舎暮らしの素晴らしさだけでは済まされない部分も沢山あるはず。セルフビルドで建てたご自宅の絶え間ないメンテナンスに加え、村の仕事や復興の手伝いなど様々な雑事にも追われるため、なかなか焼き物に専念できないという悩みもあるようでした。でもぜんぜん嫌そうじゃない。いろいろなことを工夫するのを楽しんでこなしている感じです。

土鍋が素敵でぜひ扱いたいとお願いすると、「いつもいっぱい焼くから、沢山出来るよ」と、さも簡単そうにお話しするんです。耐熱の大きなお鍋の難しさをあちこちで聞いてばかりいたのがウソのような、あっさりした答え方。一ヶ月に一回は窯を焚くけど、一度に何十個単位でまとめて作るからと、本当に何でもない事のよう。7合くらい炊ける大きな土鍋も探していて…と聞くと「お寺さんに頼まれて100人用の巨大鍋も作ったことあるし、大きい分にはいくらでも大きくできるよ。そのお寺さんの時は竈まで一緒に作っちゃったけどね」という、なんとも頼もしい答えが返ってきます。壷田さんの耐熱のうつわは伝統的に土鍋が作られてきた伊賀の粘土だけを使っています。土鍋の中には油を使わないでください、というものも多いのですが炒め煮もOK。パエリアなどを作ることもできるし、スキレット鍋でアヒージョを作ったりと、油調理も出来るのでご飯以外にも使えるのが嬉しいのです。シチリアではお豆を煮るのには絶対土鍋がよいと言われていたんです、と話すと「やっぱり!」と盛り上がりました。

昨年スペインに滞在して「いろいろなパエリアを食べたけれど、いちばん美味しかったのはアンコウのパエリアかな~」と壷田さん。おっそろしくお料理が上手なんです。わたしがお邪魔した時も、それはもう10品以上の凝ったお料理をわあ~っとテーブルに広げて歓待してくださり、どれもこれもがとんでもなく美味しかった!タコとお多福豆のアヒージョや、アンチョビ風味のジャガイモに赤い水菜と木苺をさっと和えたサラダ、チダイの軽い煮物はほんのりサフラン風味、ゼンマイとモッツァレラ、オリーブの和え物…そして、一生忘れられない青鳩のグリルは和宏さんの青いスキレット鍋に、青つながりでブルーベリーも入れて。それを天ぷら窯でグリルするときに「桜材で焼けば若干スモークの香りも付くから合いそうだよねなんて話す壷田さんを見て、火の番をしていた息子さんが「なんか最近うつわよりお肉焼いてることの方が多いような…」と笑っていました。もう、よほどお料理が好きなんでしょうね。食材の組み合わせがオリジナルでどのお皿もセンスがよく、そのままオーベルジュでも開けそうなくらいでした。

そんな和宏さんが作る土鍋、ウチではまだご飯だけしか炊いてみていませんが、とても美味しくふっくらとお米をツヤツヤに炊き上げてくれます。でも、もっともっと上手に炊きたいなと思っていたところに、ご飯の本も出版されているお米農家やまざきの山﨑さんご夫婦がたまたま来店してくださり、形状的にもお米を炊くのに理想的と和宏さんの鍋を見て教えてくださいました。直径と深さが同じくらいのコロンとした形がちょうどよくお米を対流させてくれるのだそうです。蓋もかぶせるタイプではなく落とすタイプなのでさらにマル!蒸気穴も小さいから沸騰してから菜箸などを挿せば圧力が加わってより美味しく炊ける、とも。

ちなみにこの山﨑さんの本『お米やま家のまんぷくごはん』、お米の炊き方やお米料理、ご飯のお供にピッタリのおかずなどが満載で、仲の良い山﨑家の雰囲気が伝わってくるなんとも楽しい雰囲気の本なのですが、何よりお薦めな点はものすごく丁寧親切に「美味しいお米の炊き方」を説明してくれていることです。お米農家さんならではの視点で、お米も玄米や五分つき米、白米など別に、また使うお鍋も土鍋なのか深鍋なのか、圧力鍋なのかによって浸水時間から炊飯方法、研ぎ方までもが詳しくケース別に目安を書いてくれているんです。早速わたしも土鍋の欄をみてこの通りにやってみたら、劇的に上手に炊けました!沸騰するまでは何度蓋をとっても構わないだなんて、目からウロコだったなあ~。「赤子泣いても蓋とるな」の呪縛にとらわれ過ぎていました。お酒もお好きだし、小さなお子さんはいらっしゃるしで、紹介されているレシピは子ども向けアレンジのアイデアやお酒のつまみにもなるお皿が多くて、もう、ワタシたちろば家族にはドンピシャリな本でした!

…と、話がそれましたが「もう20年以上陶芸やってきて、最近ちょっとまた大きく方向転換してきたというか、なんかもっとこう、陶芸ってこういうのと違うよな、と思うようになってきてたんです。本来はもっともとっと、身近な人のために作るものであるべきな気がして…」と話していた壷田さん。近所のおじいちゃんやおばあちゃんに、とにかく使ってみて欲しいからと作品を配ってしまったりもするのだとか。近隣のお土産屋さんに作品を置いてもらったりと、もっと地域に根差して行きたいという想いもあるようです。ワタシママろばの気持ちとしては、だったら、私たちがそれに近い形で彼の手から生まれたものを手渡しするようにお伝えできないか、と。実際に手から手へとお渡しする代わりに、ワタシが和宏さんとお会いして感じた気持ちをそのまま、限りなくライブに近い形にして、作品と一緒にお渡ししたい。ろばの家まで足を運んでくださる方には直接、それはできない方にも、作品の写真やこの果てしなく長いお話から”何か”を感じてもらえたら…と。そう思うと長くなっちゃうんですよね~。言い訳言い訳…。

「インターネットでそんなことが出来るもんか?」と思われてしまいますでしょうか。でも、遠いところにいて、なかなか高千穂まで彼を訪ねていけない方も、そもそも彼の存在さえ知らない方も、ただぼんやりと土鍋でご飯を炊いたら美味しいんだろうな~、とだけ思っていた方も、もしその”何か”に心を惹かれて、和宏さんの作品を手に取ってみたいと思ってくれたとしたら、ワタシとしては方法のいかんにかかわらず、橋渡しをしてみたいです。だって少なくとも、わたしはすでに毎日このとびっきりの楽しさを実感している。そして彼の作品たちが与えてくれる力に日々感動している。ごはんを美味しく食べたいという力を与えてくれるということは、生きる力を与えてくれるということですよね。それってすごいことだと思うのです。どこか遠くにこの子たちが旅立って行って、箱を開けられて、そのまだお会いしたことのない使い手さんに対面し、土鍋はきっと言うんです。「はよ、炊いて~な」と。想像しただけで、ワクワクしてきちゃいます。

さあ、今日も炊きますよ~。よろしくお願いしますね。


壷田和宏さんの土鍋・うつわはコチラです。
残念ながら今回はお会いできませんでしたが、壷田亜矢さんの白磁のうつわも届いています。とても個性的で素敵な佇まいです。新潟、柏崎のギャラリーTanneさんで個展を拝見していっぺんに惚れ込んでしまったのがそもそものきっかけでした。まさかこうしてろばの家に作品を置かせて頂けることになるなんて…。とっぷりとした白い肌を眺めながら、ひたすらこの不思議なご縁に感謝してしまうのです。
壷田亜矢さんのページはコチラです。

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