刺激されるのは、何よりもまず触感。こんなにも色っぽい焼き締めが存在するなんて。

「思いっきりなでなで、頬ずりしてやってください。」松本かおるさんがご自身で何年か使い込んだというサンプルのうつわ。添えられていたメモにそう書かれていたのでした。下の写真はその汲み出しですが内側がかなり味のある色に育っています。写真からはわかりにくいですが表面もところどころ艶々と光沢を帯びて、なんともなめらかですべすべした触り心地です。とても焼き締めという感じがしません。焼き締め。つまり無釉で焼かれた陶器で要するに粘土だけで出来ているということです。一般に荒々しいイメージのある陶器で手触りももっと粗いことが多い。でもかおるさんの焼き締めはまるで河原で見つけたまん丸の石、波に洗われたガラス石、上質な石鹸…。一番近いのは、子どもの頃母親が洋裁に使っていた三角チョークだと思うのですがわかるかしら?今ではペンタイプのチャコペンが主流だろうけれど、当時は水色やピンク色の薄っぺらい小石のようなもので布に印をつけていました。そのチャコの手触りと、かおるさんの使い込んだうつわの表面の感触がとても似ているのです。


なめし革が使えば使うほど光沢を帯びて色濃く育ってゆくように、かおるさんの焼き締めは手で持ったり洗ったり、使っていくうちにどんどん質感が変わってきます。ワタシがはじめて購入したフリーカップは3月から毎朝使って、もうすでになんともいえない鈍いツヤが出てきました。玉子の殻のようにマットな触感からより滑らかな肌へとテクスチャーを変え、乾いた見た目も濡れたようにしっとりとした質感へ。触れば触るほどなめらかに、気持ちのよいすべすべのお肌になってゆくのです。かおるさんではないですが、いつまでもナデナデしていたい。

そして驚くべきはその軽さです。焼き締めというとどうしてもどっしりと重く分厚い印象がありますが、かおるさんのうつわはかなり薄くシャープな印象です。それでも冷たい印象がないのは、暖かなオレンジ色が基調だからでしょうか。イタリアはトスカーナ地方、シエナやフィレンツェのテラコッタの屋根…「魔女の宅急便」でキキが箒にまたがって空を飛んでいくときに眼下に広がる、あの美しい赤茶色のモザイク模様。はじめて見た時その風景を思い出し心が躍りました。こういう焼き締めもあるんだ、と。そして手に持ってみた時の軽さと独特の質感に、すっかり感嘆してしまいました。なんて洗練されているのだろう。ナチュラルであることと、洗練されていることは、同居できるのだという発見に心から驚きました。

この、さまざまな色調のオレンジ。これらの色の違いが100%、土だけで出されているだなんて…。乾いたタイルのように白っぽいベージュからはじまって、明るいオレンジ、濃いオレンジ、赤茶、茶褐色、そして炭のように焼け焦げた黒褐色。それぞれの濃淡の中にも赤味、黄身、グレーがかっていたりと微妙なニュアンスの違いもあり…要するに無限なのです。さらには一枚のお皿の中にさえ異なる色味や濃淡のついた模様のような表情もあり、ずっと見ていても飽きません。こんな風にまったくのすっぴんでここまで違った表情を見せてくれるなら、確かに釉薬なんて必要ないんじゃないか?とまで思ってしまう。少なくともかおるさんの焼き締めを見る限り、色味がなくて物足りないだなんて思えないのです。


「わたしが使っているのは備前の土だけです。同じ備前という土地の粘土であっても採取される場所により成分が変わります。備前にいた頃はよくあちこち行って掘っていました。さまざまな色合いの粘土があって今は4種類の異なる粘土とそれらをブレンドしたものを使いわけています。さらに、焼く時の温度や酸化・還元の加減、何回焼くのかでも仕上がりの色は変わります。3回焼いているものもあるんですよ。炭や藁を使うこともあるので予期せぬ化学変化により、さらに複雑なうつわの表情を楽しむことができるんです。」その無限の可能性に、かおるさんはすっかり魅了されてしまった様子。もともと複数の飲食店を展開する会社の広報として働いていたせいか、食とうつわには常に関心を持ち続けてきたのだと話していました。

「わたしはスタートが遅かったから…」とおっとりとした口調で続けます。「食べることが大好きだったので、自分が使いたいうつわを作りたいと思って。それで憧れていた備前の陶芸家に師事するため、生まれ育った東京を離れ備前陶芸センターに入りました。思い切りはいい方なんです。フットワークが軽いのかも」と笑っていました。とっても華奢で可愛らしい女性なのに、話していると芯の強さのようなものも感じてしまう。迷いがないという感じでしょうか。「ずうっと焼き締めばかり作っていると、色物(釉薬をかけたもの)をやりたくなったりしませんか?」とたずねると「土だけでこんなにも表情が変わるのに、まだまだその魅力を引き出しきれていないという思いの方が強いんです。」と、どこまでも焼き締めに惚れ込んでいるのだということが伝わってきます。

まだ陶芸自体本格的にはじめて10年ちょっと。比較的早い段階から今のようなスタイルに落ち着いたのは、とにかく自分が使いたいうつわを目指してきたから。焼き締めは好きだけれど、自分で使うのならやはり軽くて扱いやすいものに手がのびます。お酒も好きで、ビールを美味しく飲めるうつわが作りたくなった。極薄のグラスで飲むような感覚を求めて自身の作品にも薄さを求めるように。ろくろで成形した後ろくろで削って厚みを調節し、さらに手持ちで削ってから手で撫でて磨きます。その後完全に乾いてからヤスリをかけ表面を滑らかに仕上げるのです。非常に行程の多い、時間のかかる方法ですが出来上がった姿には唯一無二の個性が生まれています。余計な装飾が一切ない究極にシンプルなデザインは、むしろ男性的でさえあります。ひたすら削ぎ落してゆく、という潔さがそう感じさせるのかも。

女性として、ちょっと羨ましすぎるほどの存在ですが、なんとも気さくな明るい性格で一度お会いしただけで意気投合。一緒に食卓を囲むのが、楽しいこと盛りあがること!そもそもろばの夫婦、食べる事・飲むことに感心がない人とはなかなか分かり合えないのです。ワタシはまだかおるさんがご自身の焼き締めでビールを飲むところを見たことがありませんが、きっと、ものすごく美味しそうに飲み干すんだろうな~。ちょっと小ぶりのビアグラスが似合う、白くほっそりした手指の持ち主。それこそ、ビールのCMに出てきそう。陶器で、しかも焼き締めでビールを飲んだ経験、ありますか?きめ細かい泡ばかりが持てはやされていますが、焼き締めは水気を含むと気化熱でヒンヤリ、ほんとうにキーンと奥までよく冷えているのが手に伝わってきます。サラダやお漬物、お浸しのようにテーブルでもひんやり冷たく保ちたいお料理にも最高です。

手つかず、無垢、といった印象も与える松本かおるさんの焼き締め。まっさらすぎて汚してしまうのでは?と使うのをひるんでしまいそうですが、油モノでも汁ものでも、それこそカレーでもどんどん使ってタワシでゴシゴシ洗い、使い込んであげる方が表面に味がでてくるうえ汚れがつきにくくもなります。土から生まれたばかりの無垢であどけない顔に、だんだんと色々な表情が加わり深みを増してゆく。その時その時の自分の心境まで浸み込んでしまいそうです。

今年の春工房を長野から石川県輪島に移し、新たな生活をはじめたかおるさん。今後は備前の土に輪島の山土を加えた作品にも挑戦してゆきたいと話していました。とても自然体で気取らない、かおるさんという女性の魅力がそのまま作品にも表れています。本当は、作品がうんぬんよりかおるさんという人の魅力をお伝えしたかった。でも、とても文章からだけで伝えきれる気がしません。そして何より、ワタシ自身がもっともっとかおるさんのことを知りたいと思ってしまっている。「え?ジビエカレー?美味しそう!行く行く~!!」っと22日のbeet eatさんの会(ご予約受付終了)にも参加予定です。直接会えばきっと誰もが大ファンになってしまうような、とっても魅力的な女性ですよ。参加ご予定の方、楽しみになさっていてくださいね。ワタクシママろばも、またかおるさんにお会いできるのが(飲めるのも…笑)楽しみで楽しみで仕方がないのです。

下がかおるさん。ママろばと一緒に記念撮影していただいたのですがあまりの顔の大きさの違いにおののき、思わずトリミングしてしまいました(笑)。その下はなんと!今回『Spicy Summer Curry&Beer』のために作ってくださったという三角のプレート。ナンをイメージして作ったのだとか。ナンにでも合いますよ(汗)。かおるさんの作品は、ぜひ色の違いを楽しんでいただきたいです。同じ形で色の違うもの、形も色もバラバラなもの。組み合わせも無限。土の色遊びという感じがまた、楽しいのです。

松本かおるさんのページはコチラです。



 

 

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