自然体であることが繋ぐ、料理人と作家の世界。渡辺隆之さんの作品を納品しました。

東京のリストランテKagurazaka Veri神楽坂ヴェーリさんに、渡辺隆之さんの作品を納品させていただきました。ろばの家では日本全国の作家さんが手作りするうつわや生活道具を中心に、イタリアや日本の食材や調味料、お菓子、キッチン道具などの生活雑貨を扱っています。実はパパろばもわたくしママろばも全くの異業種出身で、ろばの家を始める前は、パパろばはワインショップで働き、ママろばはイタリアワインのクルティエとしてイタリアのワイナリーを日本に紹介するという仕事をしていました。その関係で今でもレストランやワインバー、酒屋さんなど飲食関係の知り合いが多く、嬉しいことに今度はワインではなく、作家さんの作品を介して繋がるという、新しい関わり方をさせていただいているお店もちらほら出てきました。

今回「いつかはお願いしたいと思っていたんだけれど…」と相談してきてくださったヴェーリの馬場正人シェフとは、ママろばがイタリアで暮らしていた頃からの友人でもあり古いお付き合い。イタリアで長い間働いていた、ソムリエでもある馬場シェフがセレクトするワインに合わせて、無理なく自然に楽しめるイタリア料理を提供しています。馬場シェフはピエモンテやトスカーナ、ヴェネト地方など様々な地方で修業を重ねたほか、なかなか日本人が入り込むことのできない小さなワイナリーをあちこち渡り歩いて研修をするなど、畑の様子を思い浮かべながらワインを紹介できるという、ソムリエとしてもこれ以上ない経験の持ち主。神楽坂上の交差点から坂を少し登ったところの路地に入った、静かな住宅地にある三階建ての一軒家です。まるごと3フロアーを使って、ゆったりと特別な時間を過ごすことができる温かい空間を、奥様の智子さんとお二人で作り出しています。
言葉にしてしまうと陳腐に聞こえてしまうのですが、日本の旬の素材を生かした、優しい味わいが馬場シェフのお料理の魅力。そして、優しいのは味わいだけではなく、真の意味でのくつろぎを提供するためにレストランの在り方を根本から追及する、その姿勢です。自分本位じゃないのです。

今回ろばの家で選んでくださったのは、渡辺隆之さんの砂鋳込みのうつわ。前菜の盛り合わせをプレートで出すスタイルではなく、小さなお皿をタパスのように数種類並べて前菜を出すように変えたため、小ぶりのうつわを何種類か揃えたい、というオーダーでした。アミューズとして一口サイズのお料理をお出しするためのお皿と、冷たいお魚料理の前菜を数種類同時に出す、その時に丸皿やオーバル皿、背の低い小鉢など形の違うものを組み合わせたい、というのです。渡辺さんのうつわは、石ころや葉っぱなど自然界に転がっている造形物のような独特の佇まいに魅かれてしまった、ということが一番の選択理由でしたが、渡辺さんご自身がうつわに対して持っているスタンス、人間の稚拙な造形が自然の造形にかなうはずがない、というところを出発点としているそのコンセプト自体に惚れ込んでしまった、というのも大きな理由となっているようでした。



ろくろを挽いて形を決めると終わりがない。「よし、決まった。完成」と手を離すその引き際を見極める勇気が持てない、だから、砂浜の石などで砂に型を取り、そこに泥漿を流し込むことで形を決めるその砂鋳込みの手法はとある妥協点なのだ。そういった渡辺さんとのやりとりをお話した時、笑ってしまうと同時にとても共感を覚えてくれた様子でした。おそらく馬場シェフのお料理やお店のサービススタンスとの接点を見出せたのではないでしょうか。親近感、と呼び変えていいのかもしれません。

「少し前から、コースをお出しする順番を変えたんです。」と奥様の智子さん。渡辺さんのお皿を納品した翌週に、お料理の撮影にお邪魔した際にお話してくださいました。通常イタリアンのコース料理では、アンティパストと呼ばれる前菜の後、パスタやリゾットなどのようなプリモピアットを出してからお肉や魚のセコンドピアットを出し、その後チーズやドルチェと進み、食後のカッフェで締める、というのが一般的な流れです。ところがヴェーリさんでは前菜で小皿料理が何品か続いた後、セコンドの炭火料理を出すというのです。つまり、パスタやリゾットを飛ばして、メイン料理を先に食べるという変則的な順序です。

「コース料理で先にパスタを出してしまうと、せっかく選んだメインのお料理を食べる前にお腹がいっぱいになってしまう、という方が結構多くいらっしゃるんです。楽しみにしているお肉やお魚をベストの状態で食べられないのはもったいないし、メインを食べた後なら、パスタの量を半分にしたり、その分をお連れ様に多くサーブするという選択も可能。しかも、やはり日本人は炭水化物で食事を締めたい嗜好の方が多い。」なるほど。本格的なイタリアンであるからと言って、イタリア人の強靭な胃袋に合わせたスタイルに、無理やり合わせる必要はないですよね。厳格にイタリアの食習慣に倣うのではなく、日本人が最初から最後まで無理なく楽しめるスタイルにアジャストしてあげる。斬新なアイディアに思えましたが、よく聞いてみるととても親切な配慮に思えました。

「お箸も最初から出すようにしたんです。本当に少し前に色々と思うところがワーッとあって、全部、枠をはずして変えてしまったんです。」…それで、この、前菜スタイル!確かに、テーブルにこんな風に小皿が並んだら、フォークとナイフだと不便、ですよね。圧倒的にお箸の方が食べやすい。ここもまた、本格的なイタリアンだからと言って細々した前菜までナイフフォークを強要する必要はない…肩肘を張らない自由なスタイル。けれども、お料理自体にはなんちゃってイタリアンと呼ばせる要素が微塵もないのです。馬場シェフご自身はイタリア滞在の年数が長いだけに、本場の文化を敢えて無視する選択は、逆に説得力を持つように思えます。本当に大切なのは、心からくつろいで楽しいお食事の時間を過ごしていただくこと。食べ易さって、味わいに負けないくらい大切な要素ですよね。

下のオーバル皿は今回の特注で、ごくごく軽く〆たコハダとがっちり発酵させたクラウティ(キャベツ)を、紫蘇でくるりと巻いて食べる一品が盛られています。確かにフォークとナイフだとかなり苦戦しそうです。ちなみにその下の小鉢はシャッキッと歯ごたえを残したホワイトアスパラに北寄貝、野らぼう菜の菜花を旬のタロッコオレンジとともにいただきます。赤土のお皿にちょこんと置いてあるのは炭火で焼いたバケットにたっぷりと雲丹を乗せて一口でいただくブルスケッタ。このお皿、添えられたナスタチウムの葉と似た形で、本当に葉っぱに乗せて出されたかのよう。馬場シェフのセンスがうかがえます。



さてさて、実際に渡辺さんにオーダーするにあたっては、いろいろな要望を汲み上げる必要がありました。なんせ、渡辺さんご自身「使い勝手に関しては、まあ、そんな程度です」と、扱いづらさを否定しないように、スタッキングに向かない、比較的壊れやすいなど難点が多々あることはシェフも了承済み。けれども、一般家庭ではなくレストランで使うとなれば、あまりにも繊細過ぎるのはさすがに問題です。だからと言って、丈夫に分厚く仕上げてしまうと、渡辺さんのうつわが持つ”はかなさ”や良い意味での”存在感の薄さ”は損なわれてしまう…。馬場シェフもそこの部分を心配されていましたが、オーダーするにあたって「個性が損なわれない程度に、でも、若干は丈夫に、気持ち厚めで…」というビミョーなお願いをしてみました(笑)。

そうして出来上がってきたのが、今回の作品たちだったのです。箱を空けて作品を手にした瞬間「わ、これはまさにオーダー通りでは!」と想像以上のドンピシャリ感に驚いてしまいました。確実にいつもの渡辺さん作品よりは丈夫そうなのに、きっちりと特有の”やる気のなさ”も消えていない。ちょうどよい塩梅です。にんまりしてしまいました。これは、馬場シェフ喜ぶぞ~と。お料理をする人が、これから自分が作ったものを乗せるという瞬間にワクワクしてしまうような相手。どうしたってテンションが上がりますよね。ただでさえ美味しいお料理が、さらにキレッキレで出てきちゃいそう、と期待も高まります。

こんな風に、まず自分自身が楽しめる事が、一番ハッピーですよね。それが正解なんです。プロの方に「どんなお皿を選んだらいいんでしょうか」と聞かれることもあります。でも、お客さまにどう見られるかよりまず先に、自分自身のテンションが上がるもの、そんな風に選べば自然とお客さまにも伝わるのではないかと思うのです。

当の渡辺さんは「レストランさんに使ってもらえるのは意外過ぎました」となんとも控え目な感想でしたが、こうして、お料理が生き生きとうつわと一体化しているところを見たら、全然意外なんかじゃないですよね。逆に、リストランテやワインバー、特に、自然をリスペクトして手を加えすぎずに作られるナチュールワインや同様のコンセプトで作られる素材重視のお料理を出すような、そんなお店にとっては、なおのことです。渡辺さんも「お料理を受け止めるものとして選んでもらえる」ことにとても喜んでくださっていて「そんな感覚を持った人の料理を食べてみたい」と言っていました。そう、うつわ選びも、サービスの在り方も、全てはそのお店の感性の現れ。それはやはり、自然とお料理にも滲み出てしまうものだと思います。渡辺さんと一緒にVeriさんで食事をしてみたいです。ご自分のうつわがこんな風に使われている様子を、渡辺さんはどんな風に受け止めるのでしょう。

少しですが、一緒に焼いていただいた渡辺さんの作品が届いています。気持ち、いつもの渡辺さんの作品より丈夫…気味です(笑)。

渡辺隆之さんのページはコチラです。


Kagurazaka Veri 神楽坂ヴェーリ
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6丁目24
03-6280-7764

定休日: 月曜日(祝日の場合は振り替え)
*基本的にご予約中心で営業されているようですので、事前に直接お問い合わせいただくとよいと思います。

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