日々、ちいさなことの積み重ね。毎日が、ハレの日。

『ハレもケも』DM表紙の青空は、宮崎県西臼杵郡高千穂町にある壷田ご夫妻の工房から見たもの。11月、展示の最終打ち合せを兼ねて、ろばの一家4人で工房にお邪魔させていただいた時に撮影したものです。

人口1万2千人ほどの高千穂町からさらに車で30分ほど離れた、五カ所村と呼ばれていた区域。90にも満たない世帯数の小さな集落の中でも、壷田さん一家が暮らすのはさらに人里から離れた場所。宮崎県でも最高峰にかぞえられる祖母山の登山口近くです。ご近所さんと呼べる家が2軒ある、と聞きましたが見渡す限り建物らしきものは見えません。工房があるのは標高1000m近くの高地ですから、宮崎県の温暖なイメージで訪問するとかなりのギャップに驚くことになります。今年の1月にも家族でお邪魔したのですが、夜間はマイナス12℃。薪で沸かす気持ちの良いお風呂場でも、一歩湯船から出ると床がツルツルに凍っていました…。

二人とも同じ学校で陶芸を学び在学中に結婚。長男を出産した直後に築いた最初の窯は愛知県。その後和宏さんの出身地である三重県、と短期間で2度3度と工房を引っ越さねばならず、自分たちの家と工房を構える必要性を強く感じた二人。薪を自由に得られる土地を探し求めてだんだんと南下するうちに出会ったのがこの、南阿蘇、祖母山のふもとに広がる壮大な風景だったのです。

3万坪の未開拓の山は、薪を得るためには十分すぎる量の樹をたたえる森と、どこまでもキーンと澄んだ空気を存分に与えてくれました。ライフラインが全く整備されていない荒れ地にセルフビルドで家を建て、3人の子どもを育て、小さな村のルールに従いながら、猫3匹とヤギ4匹、烏骨鶏たちと一緒に楽しく暮している…ように傍からは見えるでしょう。こんな環境ならば、さぞかし制作に集中できるでしょう、と。実際には、薪窯や暖房のためだけではなく、ただお湯を沸かすのにも薪を用意しなければなりません。薪、というと薪割が大変そう、と思いますよね?でも薪を用意というのは、自分たちで山に分け入り、樹を切り倒して枝を払い、水気を含んだ重たい木を運んでくるところまでの過程すべてを指すのです。一事が万事、そんな調子です。近くにお店はなく、最低限の家仕事でちょっと足りないモノを買うのにも、貴重な時間が奪われていきます。

実際問題、純粋に制作に費やせる時間など、街で暮らす人に比べれば半分以下なのではないだろうか?というくらい、家族、生活、村、動物などの雑事に時間を割かれている様子が、たった二泊三日の短い滞在でもひしひしと感じられました。お子さんの学校の送り迎えだけでも、車で往復1時間かかるのです。だからこそ、土と向かい合えるわずかな時間が貴重なものとなるのかもしれません。

工房での制作場面を見学させてもらいながら、いろいろなお話をしました。ワタシたち二人の他愛のない質問に答える間も手は休むことなく動き続け、目の前で次々と土鍋の底が出来上がってゆきます。

「和宏さんの制作風景は撮ったのに、亜矢さんは山羊と戯れてる絵しかない」と嘆いていたら、「山羊の散歩も大事な仕事やからねえ」と笑っていました。この二人は、いつだって、何をするのだって、楽しそうです。そう、家のメンテナンスだって動物たちのお世話だって、もちろんお子さんと一緒の時間だって、全てが壷田家の暮らしを構成する大切な要素。ひとつひとつ目の前にあることを、あることは丁寧に、あることはちゃちゃっとこなしてゆかなければ、自分たちの好きな土遊びの時間がなくなってしまう。そしてどうせやらなければならないことならば、楽しんでやってしまった方が、やる方もやられる方もラクなはずなのだ。同じことをやっていても、つらそうに、大変そうにやる人とそうでない人がいる。キャパシティーの問題ではないのではないか、と二人を見ていると思ってしまう。

小さな村では自分たちの望むものはなかなか見つからず、なければ何でも作ってしまう。子どものおやつはほとんど毎日手作り。特に和宏さんは粉モノが大好きだそうで、朝からパンも捏ねるし、毎日のように何かしら焼き菓子を焼いていると言うのです。「焼きものはプロやから」苦にならないのだそう(笑)。なんともお子さんが羨ましい…と思いきや「本人が一番食べたいんやからね。まあ、喜んで作ってるよね。」と亜矢さん。忙しいのに、よくおやつまで…と感心していると「以前窯焚きなんかで立て込んできて、食べることをおろそかにしそうになって、ひどい目にあったことがあるんやわ。こんなところでも、30分も行けばコンビニもあってね。でも一度そっちをないがしろにしてしまうと、あとはなし崩しでしょう?どんなに制作が大変な時でも、そこだけは守らなくちゃって思うよね」と、いち母親としては大変耳が痛いお話も飛びだす。

ワタシたちがお邪魔した11月の後半は、ろばの家の個展以外にも数件展示が迫っていて、窯炊き前の作り込みで最も忙しい時期。それでも、子ども達が森に遊びに出かけている間に制作の手を止め、あっという間にタルトを3台焼いてくださいました。壷田家の土間にどーんと据えられたイエルカさんの薪ストーブは、はじめてうかがった時からママろばの憧れ。いくつもお鍋をかけておける広い天板と、両側から開けられる大きなオーブンがついていて、一度にパンやお菓子を沢山焼けるのです。和宏さんは煙突に塩豚をぶら下げて、ベーコンまで作ってしまう。この日は紅玉とサツマイモ、梨のタルト。バターを使わず全粒粉を菜種油で捏ねたサックサクの生地の、軽いことかるいこと!翌日の朝ごはんにも出してくださったのですが、ママろばはしっかりスープやサラダ、トーストを食べた後なのに3切れも平らげてしまいました。

「好きなことをして生きてゆく人生」に憧れて焼き物を一生の生業と決め、この地を選び、二人の子どもとお腹の子と5人で移り住んできて、早10年。大自然の中での自由な暮らし、俗世から隔離された静かな場所でのクリエイティブライフ…そんな夢物語のような言葉で片付けられる平穏な日々ばかりでなかったことは、容易に想像がつきます。「お金がなかったこともあるけれど、長男の太郎が生まれて、まだ二人とも学生で、解体の仕事をやりながら焼き物を焼いた。毎日ひたすら家を壊していたら、何十年もローンも組んで家を建てることが、どうしても理不尽に思えて…」と和宏さんが自分たちの家を自分たちの手で組み立てようと思ったいきさつを語ってくれました。

それでも、土を掘り、捏ねて、焼く…その、自分たちが好きでたまらないことをして暮らしてゆけることが「これ以上ない贅沢だと思う」と、二人は口を揃えます。人生において、大切なものは何か。豊かさとは何か。子ども達に、何を残してあげたいか。どんな姿を見せてゆくべきなのか。ここへ来るとどうしてもそんな、生きる事、暮らしてゆく事の根底にあるものについて、深く思いを巡らせてしまうことになります。

『ハレもケも』というタイトルが決まった瞬間、「美しいイメージが輝いています。そこから妄想。想像。土から形にします」と言ってくださったのは亜矢さんでした。その言葉を聞いた時、「人生いろいろ。ワタシも、ヨーコさん(ママろばの本名です)も、いろいろあったな~。…みたいな」と深く広くとらえることができた、と。

実は「ハレもケも、で行こう」と決めたのは、高千穂に家族でお邪魔する直前のことでした。直前までDMも出来ておらず、ではタイトル文字をどうしよう?と和宏さん、亜矢さんとあ~でもない、こ~でもない。「子ども達に書かせてみたらどうだろう?」と昼食のあと筆と半紙を持ち出して、お習字大会。最初は真面目に書いていた子供たちも途中から「haremekeme」と呪文のような字を書きはじめたり、「ハレも毛皮」と書いて見たり…。でも一番張り切って遊んでいたのは、実は和宏さんでした。子ども達が盛り上がっている間姿が見えないので、工房で展示の作品を制作しているかと思いきや「これどうだろう~」と持ってきたのは土鍋用の耐火粘土の塊。ハレもケも、と彫刻刀で削ってあります。そこに墨を塗って、半紙を当てて「あ、逆やったあ~。これはダメだな」とまた工房に消えてゆき、今度は粘土でひとつひとつ文字を作ってきたり…。まあ、とにかく何だか楽しそうなのです。以前和宏さんが「子供ような未完成の感性を持ち続けたい」と言っていた事を思い出しました。目指さなくとも、十分子供のようですけど、ね。

毎回毎回、梱包を解くのが楽しみでならないお二人の段ボール。和宏さんの土鍋の包みををひとつひとつほどいていたら、最後に出てきたのはこんな青い土鍋でした。蓋に、フクロウがとまっています。

口から、湯気が出るのです。夜のイメージで作っているのか、蓋を開けるとお鍋の底には月の模様が描かれています。そう思って見ると、水玉だと思っていた柄は、もしや夜の森の風景だったか!とハッとなります。もっとも目立つ、入口のところに設置しておいたら、以前和宏さんの土鍋を購入したお客さまが「可愛い!」と気に入り、ひとしきり眺めていたかと思うと、突然、こう言ったのです。

「このひとこうやって、ずう~っと一生、遊んでいるんでしょうね。」

「そうそう、本当にそうなの。」とケタケタ笑う亜矢さん。「ストーブに常にかけておいて、加湿器にしてもいいと思うんやけどね」と追い打ちをかけます。まったく、どこまで本気で、どこまでふざけているのだか。でもきっと、どこまでも本気で遊んでいる、それが正解なのでしょう。

壷田家の暮らしを見ていると、お二人の子どものような好奇心と、今この瞬間を楽しむ能力につくづく感心してしまいます。その能力こそが、ユーモアとよばれるものなのではないでしょうか。目の前にある暮らしを創意工夫で楽しむこと。何でもない毎日を慈しむこと。そこから生まれてくる小さな感動を、見逃さないこと。

日々、小さなことの積み重ね。毎日が、ハレの日。

壷田ご夫妻のユーモアあふれる作品たちが、「ハレもケも」分け隔てなく、ワタシたちの毎日を楽しく、豊かにしてくれる。そう信じてこの企画が生まれました。ぜひ、ご覧ください。
*Online掲載は、画像などの準備ができ次第のご紹介となります。どうかお楽しみに。

 

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